小説家さんと彼らとの日常

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「大河さん?」 「ぎゅってしたい」 「あぁ、はい」  人通りが無いとはいえこんな道のど真ん中で、と動揺しつつも足を踏ん張るのを辞めると私の体はぼすっと彼の腕の中に収まる。 「フミさんが母さんに気付かせてくれたんだ。母さんが価値のある人なんだってこと。よかったって思った。フミさんと記憶に残りたいって思った」 「え、えぇと」 「ずっと思ってたんだ。いつか母さんみたいにひとりぼっちの子どもを救える人になりたいって。手伝ってくれる?」 「それは、もちろん。側にいられる限りはできる限りのことをしますよ」 「じゃあフミさん長生きしてね」 「え?」  どうしてそうなるんだろう。と声を漏らすと大河さんは私を抱きしめていた腕の力を緩め、私の顔を見つめると穏やかに笑う。 「フミさんより長生きするつもりだけど、ひとりの時間が長いと悲しいから」 「え、あ、あぁ」  どういう意味だろう。確かに笑顔がこんなに素敵な人がふたりっきりで買い物や食事につき合ってくれていたら彼のファンの子が恋仲なのだと思ってしまうのもうなずけるけれど。 「フミさん?」 「え?」 「今、関係ないこと考えてたでしょ?」 「えっと、まだ頬は痛むんでしたっけ?たまに湿布してますけど」 「それは、違う人にバンってされてる」  私の質問の仕方が悪かったのか大河さんはぐい、と私の手を引いて再び歩き始める。 「やっぱり、自分に向いていた好意を失うのは怖いですか?」 「うん。母親のこと、思い出す」 「そうですか」  そこで会話が途切れ、私は空や周りの風景を見ながらゆっくりと彼の隣を歩く。 「クロ先輩から、両親が死んでるって嘘だったの聞いたのにフミさんはどうして何も訊いてこないの?」  しばらく歩いて目的地の郵便局が見えてきたころに大河さんは私にそう問いかけ、反応をうかがうように顔を見つめた。
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