小説家さんと彼らとの日常

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「そう、言われると困りますね。感動的な理由がある訳では無いので」  期待されないように前置きを話しながら、彼に自分の思っていることをどう伝えるのかを考える。 「私は、本来ならあなたから訊かなければならないことを黒澤さんから勝手に聞いてしまいました。それに、大河さんのお母様は黒澤静代さんでしょう?」  全く気にならないという訳でも無いけれど、知る必要のあることだとは思っていない。それが伝われば、とそう問いかけると彼は無言のままうなずく。 「心配しなくても、私が大河さんに対する好意を失くすことはありませんよ。だって私にとってこれ以上の相手なんているはずが無いですし」  彼が不安そうな表情のままなので、少しは気休めになったら。とそう伝えると歩き続けていた大河さんの足がまた止まる。 「これ以上の相手はいない?」 「え、えぇ。当然でしょう」  過去の経験上、少し、ちょっとだけ人間不信になっているところがあるから彼くらい好きだと言ってくれる人でないと不安になってしまうし。それ以上に、 「私はあなたに出会えて、ほんの少しかもしれないですけど自分のことを嫌いじゃなくなれた気がするんです。それまでずっと自分の人生に落ちている大きな影だと思っていたものが些細なことのように思えるようになって」  そこで彼の目を見ると、自分の表情が笑顔になるのを感じる。 「生きるのが少し楽になった気がするんです」  そう口にすると大河さんの表情がぱあぁ、と明かるくなる。 「藻上大河という餅に舞い降りてきたあんこがフミさん」 「えっと、ふたりそろってようやく大福になれるということですか?」 「そう」 「そう、ですか」  無理に和菓子に例える必要は無いと思うのだけれど。 「フミさん、そういう歌詞にしたらどう?」 「和菓子の歌ってことですか?」 「好きって気持ちを歌にする」 「それだと、ブルーさんの歌う曲ではなくなってしまいそうな気がするんですが」  ブルーがただの恋の歌を歌うなんて似合わないし、ファンとしてそれは嫌だな。と不安に感じてそう口にするが彼はそうは思わないのか首をかしげる。
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