番外編 小説家さんと赤いギター

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「もう指輪をいただいているのに、これ以上そんな値の張るものをいただけません」 「似合ってるよ」 「え、あぁ、ありがとうございます」  指輪をしている左手をとって甘い言葉を言ったりするから動揺してお礼を言ってからハッとする。 「ち、違います。これだって私はてっきりシルバーかと思って、何か白いなぁとは思ってましたけど。菜奈村さんに言われるまでプラチナだって気付かなくて」 「でもフミさん、フミさんだって一緒に出かける度に服とか買ってる」 「だっ、それはだって、私の好みの服っていくらいいなぁと思っても自分で着ると、こう、違うんですよ。マネキンが着ているのと。でも大河さんはそれを全部着こなしてくれるじゃないですか」 「かっこいい系の服ばっかり選ぶから」 「だって、革ジャン着たい」  長年思ってはいるけれど達成できていない願望を口にすると着ている黒いパーカーに視線を向けられる。 「かわいい」 「ど、どこがですか。ちゃんと黒でしょう?」 「ぶかぶか」  言われて自分の服に視線を向けると、確かにパーカーの裾は太股と膝の中間辺りにあるけれど。 「母さんが買ってくる服はサイズが無いからって全部女ものだったから、ひとり暮らししたら男ものを着るんだって、思ってて」  そう話している途中でまたギターを渡され、話しながらそれを受け取る。 「でも、着てる服全部ぶかぶかだからご飯おかわりをテーブルに置いてくれるときに、」 「え、ときに、何ですか?」 「襟元が緩くて、だらんって垂れるからそこから見えるのが妙にエロいってみんな思ってるんだけど」  そう話しながら胸の突起をつん、と押され、 「お、男同士じゃないですか!」  と言いながらも恥ずかしさがこみ上げてくる。 「そんなことになっているなら言ってくれてもいいのに」 「だって言ったらフミさん気をつけちゃうでしょ」 「当然です」  そう答えると大河さんがこちらに近付き、私が持っていたギターを受け取りながら 「じゃあ、俺にはわざと見せて」  と耳元で囁く。 「か、からかわないでください」  背筋がぞくりと甘くしびれるのを感じながらそう文句を言うが彼はそれには答えずに 「黒より赤かなぁ」  と並んだギターを見て呟く。
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