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「それで?」
「世の中の見え方が変わったんです。編集という仕事も悪くないなと思えるようになりましたし、いつか先生ご本人にお会いできるかもしれないと日々努力を重ね、」
唯一話を聞いている黒澤さんに先を促されて沢井くんが話をするが、彼は話の途中でぴたっと固まる。
「ぼくは今なんの話を、ぼくと能登先生の出会いを訊かれたんでしたっけ?」
「いえ、どうしてここにいるのか。と訊いたんですけど」
「仕事です」
「それは、えぇと」
一度聞いた返事をまた聞かされ、困惑した様子の黒澤さんは自分が持ってきた雑誌を机の上に置き例の記事が載っているページを開く。
「つまり、編集としてはこういったスキャンダルを起こされると困るから年末年始でも休みを返上して見張っている。とか、そういうことですか?」
「いいえ。私が見張っているのは能登先生ではなく能登先生を狙う不埒な輩なんだ」
「それって、どう違うんですか?」
「結果的には編集部を守ることになるけえど、ぼくは能登先生親衛隊の隊長だからね、この記事を見て反省したんだよ。先生が顔を出すイベントで護衛をするだけでは足りなかったのだ。と!だから事態が落ち着くまではこうして見守っているのさ」
「さっき仕事だと、」
「親衛隊の仕事さ!」
「そ、そうですか」
ここまで沢井くんと会話してきた黒澤さんもさわやかさにやられたのか助けを求めるようにぐるりと周囲を見回す。
「えぇと、その、親衛隊って何でしょう?私、自分のことなのにそんなものがあるなんて知らなかったんですが」
自分の話なのにここで黙っている訳にもいかないだろう。とおそるおそる問いかけると沢井くんは
「非、公認組織なのさ」
とさわやかに答えた。
「そもそもどうして親衛隊なんて、」
「ファンだからさ。先生には会うたびにそう伝えてたはずなんだけどね」
「いや、その、」
そうだったかな?会うたびに美しいとか意味の分からないことは言われていたけれど、それが、ファンだって伝えていたってことだってことなの、か?
私はてっきりお世辞が壊滅的に下手なのかと思っていたのだけれど。
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