小説家さんとお正月

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『先生、原稿確かに受け取りました』 「あぁ、はい」  通路を忙しそうに行き交う人たちの邪魔にならないよう壁際に寄って庵さんの言葉に返事をする。 『それにしても、普段よりも順調に執筆を終えられましたね。藻上さんが何も言っていなければ、これが能登先生自身の手でボツになっていたかと思うと恐ろしいですね』 「そのこと、まだ言いますか」 『しつこいくらい言っておかないと、先生は同じことを何度でもやりそうなので』 「わ、わかりました。もう私が書きそうな作品すぎるからという理由でボツにはしません」 『いっそ書いたプロットは全部送っていただきたいくらいなのですが』 「それはちょっと」 『ではせめて、ボツにするプロットは藻上さんに見せてからにしてください』 「大河さんのことを随分と信頼しているんですね」  その逆で私は信頼されていないんだなぁと思いながらそう口にすると 『先生だって、彼に判断して貰ったほうが踏ん切りがつくでしょう』  と返される。 「それは、そうかもしれませんが」 『では、是非とも今後はそうしてください』 「わかりました」  そう返事をしながら彼女に訊かなければならないことがあったことを思い出して 「そういえば、庵さんは和菓子の中でこれが好きというものはありますか?」  と問いかける。 「実はその、長いこと実家とは疎遠だったんですがいろいろあって関係が修復されつつありまして。父が息子が世話になっている礼としてうちの商品を送らせていただきたい、と」 『そういうことでしたら私は最中を』 「わかりました。じゃあつぶあん、抹茶、コーヒー餡の三種類が入っている詰め合わせがあるのでそれを送りますね」  さすが庵さん、遠慮とかしないんだなぁと思いながら答えると 『コーヒー餡なんてあるんですか?』  と問いかけられる。 「新鮮ですよね。弟が考案した商品で発売して一年たっていないそうなんですが、あっという間に人気商品になったらしくて。私も食べたんですが苦味と甘さのバランスが絶妙でおすすめですよ」 『能登先生、自分の本もそれくらい流れるように宣伝していただけたら助かるんですが』 「それは庵さんにお願いします」  自分でつくったもののほうが難しいんだよなぁと思いながらそう言葉を返すと 『言うようになりましたね』  と感心された。
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