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「うん、ん?」
何を言われているのかは理解できるけれど返事をしなければならない。ということさえ頭に浮かばない。とりあえず頷いておくと大河さんが私の代わりに
「フミさん、まだ眠いって」
と返事をする。
「でも文斗が起こしても起きないなんて珍しいわね。うちで起こすのに手間がかかるのは理央のほうで、文斗はいつも自分で起きてきていたのに」
「そうなんだ」
「でもこれじゃあまるで子どもに戻ったみたいね」
「甘えられるのうれしい」
目をつぶってふたりの会話を聞くが頭はぼうっとしたままだし、立っていることさえ辛くなって隣に立っている大河さんに寄りかかる。
「フミさん、向こうに帰る前にお母さんに挨拶しないと」
帰る?あぁ、そっか。弟に車で送って貰うんだったっけ。
その、えぇと、私の引っ越し作業をお正月の間に終わらせようって。
「母さん、じゃあその、父さんとおじいちゃんとおばあちゃんによろしく言っといて」
気だるさを感じながらも何とか自分で立ち、働かない頭を動かして挨拶をすると母さんは
「編集部のみなさんへのお土産は沢井さんに渡したからね」
と言う。
沢井、あぁ、あの人も一緒に帰るんだっけ。
それより何で寝てちゃいけないんだっけ?締め切り、はまだ大丈夫のはず。
「じゃあお母さん、体に気をつけて、お店がんばって」
ぼんやりと考えごとをしながら再び目をつぶって隣に寄りかかると大河さんが声をかけ、それでも寄りかかったままでいると彼がわずかにしゃがんで私の体を抱き上げる。
「じゃあ大河さん、文斗のことをよろしくお願いします」
「うん」
耳元で彼の返事を聞きながら、運んでくれるなら眠っていてもいいのかな。と私は意識を手放した。
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