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【第29話:復讐の誓い】
~謎の黒幕っぽい男の視点~
「ほぉ~穢れた勇者どもの反応が消えた……ここでまあっさり討伐されるのはちょっと予想外だな」
しかしそういう私は、こみ上げてくる喜びを噛みしめていた。
だって、少しは抵抗があった方が楽しいですから。
「なんだ? 偉く嬉しそうじゃねぇか?」
せっかく良い気分だったのに、こいつは気が利かないな……。
私は少し不機嫌になりながらも、穢れた勇者だった男を睨みつける。
「本当にあなたは気が利きませんね。でも……英多郎がいてくれて助かるよ」
この男は生意気だが、一応のところは協力的だったし、実力も魔王てとらぽっどに匹敵する強さを持っている。
口は悪いし気が利かないが、助かっていることも多いのだ。
「なにそれ~? 告ってんの!? ねぇねぇ! ウケるんだけど~」
それに比べて……ムカつくのはこの女、理恵のほうだ。
「おい。理恵。いい加減私も我慢の限界というものがあるぞ?」
そう言って魔力による威圧を向けるのだが、こいつも英多郎と同じぐらいの強さを持っているので、たいしてこたえていないようだ。
「まぁまぁ~そんな怒んないでよ? 私とあんたの仲じゃん?」
「どんな仲だ! そもそも私はお前のような下品な知り合いはおらん!」
「つれないなぁ~。ちゃんと命令には従ってるんだからYouも仲良くしちゃいなよ~」
そう言ってギャハハと笑う理恵。
本当に腹が立つ!!
しかし、知らないと言ったのは嘘だ……。
私は元々この世界の人間ではない。
私は昔、こいつらと同じ中学に通っていたのだ。
そして理恵は、当時反抗期だった私が所属していた女子グループのリーダー的存在だった。
そして運が悪い事に、こいつのギフトが看破系のギフトだった。
理恵は、私が誰だか気付いていた。
私が『坂村 志保』だという事を……私が元々女だったという事を……。
~
この世界に来たのは一年前だった。
私を異世界召喚したのは、勇者信仰の中でも過激派で知られる共和国の『黒き泉』という秘密結社が母体になった宗教組織だ。
その日私は、理恵に頼まれて教室を抜け出して駅前のコンビニに唐揚げ棒を買いに来ていた。
いわゆるパシリをさせられていたんだ。
当時の私は特にその事に不満を感じていなかったが、買い物を済ませて教室に戻ると、何故か廊下に人だかりが出来ていた。
みんなスマホを出して何かを撮影しているようだった。
しかし、そこに理恵たちの姿を見つける事が出来なかった私は、そのまま教室に向かう。
理恵たち以外とまったく会話をした事がなかった私に、何があったのかを尋ねるという選択肢は存在しなかった。
そして、教室への扉を開けたのだ。開けてしまったのだ。
理恵たちの代わりに出迎えてくれたのは……教室いっぱいに広がった大きな魔法陣と、空間の亀裂だった。
ただの中学生だった私が、その光景に驚き、ただ茫然と立ち尽くしてしまったのは仕方ないだろう。
だけど……だれがこんな異常事態に面白がって背中を押してくる馬鹿がいるなんて予想できるだろうか?
信じられない思いで振り返った先に見えたのは、腹を抱えて笑っている理恵たちと、その取り巻きの男たちだった。
しかし、理恵たちが笑っていたのも最初だけだった。
何故なら、私の身体は切り刻まれ、教室全てを赤く塗りつぶしていたのだから。
教室に倒れ込むように入ってしまった私に待っていたのは、不完全な勇者召喚による魂だけの異世界召喚だった。
この世界での勇者召喚は、聖エリス神国のみが行える儀式魔法なのに、奴らはそれを見よう見まねで強行したのだ。
あきれる事に、奴らは私の前にも何度も実験を繰り返していたらしい。
何度も何度もその実験は繰り返され、失敗して犠牲者を増やし続け、ようやくたどり着いた方法が魂だけの召喚だったそうだ。
そして次に目覚めた時、私は男だった。
意味がわからなかった。わかりたくもなかった。
魂は用意された魔造人体に定着させられ、今のこの身体となったのだ。
だから……復讐すると誓った。
面白がって私を突き飛ばした同級生たちに。
こんな不完全な勇者召喚を強行した共和国の奴らに。
そして……この世界『クラフトス』そのものに。
~
「おい! あいつらがやられたんなら、命令を出さなくて良いのか?」
どうやら私は考え込んでしまっていたようだ。
「すまない。そうだな……ようやくここでま漕ぎつけたんだ」
「な~にカッコつけてんのよ! ギャハハ!」
私は理恵に視線を向ける。
ムカつく女だが……いい気味だ。
呪いで醜く歪んだ姿になっているのに、それに気づく事も出来ない。
わざと生かしてやっている私のおもちゃ。
これからせいぜいこき使ってやるんだ。
「じゃぁ、そろそろ始めようかしらね。戦争を」
私は陰謀のバラムを核にして創り出したゴーレムに指示を出し、その肩に座ると、後ろで整列した者たちに視線を向ける。
元クラスメイト30人の穢れた勇者たち。
そして……ガリア帝国が誇る大陸最強の機工兵団に、進軍を指示するのでした。
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