【第25話:いかなくなったかなぁ……】

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【第25話:いかなくなったかなぁ……】

 そこには何も無かった。  木で出来た質素な家も、田畑も、塀も、そして人も……何も無かった。  ただただ、何もない土地が広がっていた。  トットはもちろん、周りに集まっていた村人や、その村人たちが住んでいた家や耕していた田畑までもが、まるで最初からそこには何も存在していなかったかのように。 「コウガ様……トット様や村が……消えちゃいましたね……」 「あ、あぁ、消えちゃったな……」  リルラがぼんやりと呟き、オレも理解が追い付かずに呆然とこたえる。 「ちょっと意味がわからないのだけれど、さっきの人たちは結局なんだったの?」 「たぶん説明してもヴィーヴルでは理解できないと思う……にゃ」 「な!? ひどくありません!?」  ヴィーヴルが混乱している所にルルーが軽く毒を吐いて揶揄っているが、若干脳筋気味な所のあるヴィーヴルでは理解できないかもしれない……とか思ってたら殺気が飛んできたので今の無しで……。 ≪コウガ様。とりあえずセイルに聞いてみてはどうですか? ここに案内したという事は何か知っているかもしれません≫  セツナのその言葉にそう言えばと、適当に宙に向かって声をかける。 「セイル! ちょっと出てきてくれないか?」  すると、オレのその言葉が言い終わるかどうかといったタイミングで、セイルはすぐ目の前にクルリと回って現れた。 ≪じゃじゃ~ん♪ 呼ばれると思って待機してたよ~♪≫ 「という事は、何か知ってるって事だよな?」  オレのその問いに、少し偉そうに小さな胸を張ってこたえるセイル。 ≪知ってるよ~私たち妖精は預言者ゾルデイムと交流があったからね~えへん♪≫  何か知っているのだろうとは思っていたが、まさかゾルデイムと交流があるとは思わなかった。  しかし、それなら色々と事情を聞くことが出来そうだ。 「それはさっきの予言についても何か知ってるって事か? 聞きたい事は色々あるが……とりあえず穢れた勇者ってのは何者なんだ? 既に掴んでるんじゃないのか?」 ≪そうだね~? どこから話せば良いのかなぁ?≫  セイルがそう話し始めた時だった。  少し離れたところで何か大きな爆発が巻き起こる。 「きゃ!? 何が起こったのでしょう?」  首を竦め、小さな悲鳴をあげるリルラを心配するが、よく見れば既に精霊が周りを固めているようだ。 「そこまで遠く無い所よね? 私が竜化して様子を見てきましょうか? 飛べばすぐでしょうし」 「いや。ちょっとさっきの予言から嫌な予感がしてならないから、念のために皆でいこう」  オレがそう言うと、皆も少し思う所があるのか納得した様子で頷く。 ≪えっと~予言の話はどうするの~? ちなみにさっきの爆発は、こちらに向かっていた穢れた勇者の3人だと思うよ~≫  しっかりと話を聞いてから向かいたい所だが、今度はさっきより近い場所で爆発が起こる。  どうも面白半分にあちこちに魔法をぶっ放しながら、こちらに向かっているような感じだ。  それとも誰かを襲っているのだろうか?  考え出すと、嫌な方に思考が向かってしまう。 「放っておくと被害が出そうだし、何か先に聞いておいた方が良い事だけあれば教えてくれないか?」 ≪うぅ~ん。しいて言えば~……穢れた勇者は使徒様と同じ世界から召喚されたって事かなぁ? あとは……もう取り返しのつかない事に、村を三つも壊滅させちゃってるのよねぇ~≫  やはりそうだよな。  そして、覚悟ってのは同じ世界出身の奴らを倒さなければいけないって事だろうか?  つい色々考えてしまうが、3度目の爆発を聞いてとりあえず思考は後回しにする。 「少し考えさせられてしまうが……それでも、やる事は変わらない。改心させれるようなら良いが、それが無理なら……倒す!」  オレが少し辛そうに決意するのを見て、リリーとルルーがそっと手を添えてくれる。 「ありがとう。でも……大丈夫だ。オレには皆がいる。皆のいるこの世界『クラフトス』こそが、オレのいる場所だ」  その言葉に、皆が嬉しそうに視線を向けてくる。なんだか照れくさいな。 「どうやら急いだほうが良さそうだし、さっさと行ってみようか」  そして準備は良いかと皆に問う。  皆が頷くのを確認すると、最近一番使用頻度の高い竜言語魔法を唱える。 「行くぞ!」 ≪導け! 【泡沫(うたかた)の翼】!≫  紡いだ力ある言葉によってつくりだされた見えない何かが、周りにいる皆を包み込むと景色が後ろに流れ飛んでいく。 「さぁ、穢れた勇者ってのにはしっかり反省してもらおうか」  その呟きのあと数秒後に目に飛び込んできたのは、学生服(ブレザー)を着た三人の少年が倒れた馬車から荷を引きずり出している所だった。 「反省だけで許すわけにはいかなくなったかなぁ……」  オレの心底残念そうなその呟きに、ようやく振り返った3人の少年の瞳は、血のように赤く染まっていたのだった。
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