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「佐藤、消しゴム借りてもいい?」
そう聞いてきたのは同じクラスの翔くんだ。
「ごめん、だめ」
私は彼からの頼みを断った。なぜなら、この前も消しゴムを貸してくれと頼まれてその日返ってくることは無かったからだ。しかし、その時の私が、消しゴムを借りる理由を彼に尋ねていたならあんなことは起こらなかっただろう。
彼の異変を感じたのはその1週間後だ。
ガタン!と急に大きな音がした。彼が椅子から転げ落ちたのだ。いつもおとなしい彼が椅子から落ちることなんてあるのかと、少し驚いた。しかし、その後も彼は咳をしたり頭を抱えたりと具合が悪そうだった。
翌日、先生が朝のホームルームで告げた。
「昨晩、鈴木くんが亡くなりました。」あの消しゴムを要求してきた子だ。なんで彼が亡くなったのか不思議で仕方がなかった。確かに具合は悪そうだったが、病気とは見えなかった。交通事故でもないらしい。
私は彼の死因を探るべく、彼の家を訪問した。そこですべての謎が解けたのである。それと同時に私はひどい後悔に陥ることになった。「翔の隣の席の佐藤さんですか。いつも翔がお世話になってました。あの子の死因はできれば誰にも言いたくなかったのですが、佐藤さんには言わなくてはならないかもしれません。実は、翔はある病気を患っていたのです。それも不治の病と言われていたのですが、応急処置として1つ方法があったのです。それは消しゴムです。消しゴムの材料が唯一彼の病気に対抗できるものだったのですが、最近の生産量と値上げにより私達の家庭で購入できる量では足りなくなっていたのです。」
「それで私に…」
「はい、本当に迷惑をおかけしてしまいすみませんでした。しかし、途中から借りられなくなってしまい、病状が悪化し命を落としました。」
「私のせいで…」
私は声にならずに真珠のような涙がとまらなくなった。しかし、彼のお母さんは何も責めるようなことは言わなかった。ただ、「自分たちが悪い」の一点張りで、しかし、お母さんの声は震えていた。怒りなのか悲しみなのか分からない話し方だった。
私の夢は医者である。病気で苦しんでいる人は外見では分からない。未知の病気を研究したい。そして、病気で苦しんでいる人々を一人でも多く救いたい。これが私の思いである。
もう二度と彼のように苦しむ人が出ないように。
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