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僕の心と春の空
「昔この工場に見学に来た時にね、作業員さんが瓦をプレス機にかけてたんだよ。その時にスパークした火花が作業員さんの頬を照らして、それが凄くかっこよく見えてね。その横顔に一目惚れしたんだ」
「その作業員さんが母ちゃん?」
ある日、父ちゃんが母ちゃんとのナレソメとやらをそんな風に語った。
父ちゃんは母ちゃんの婿養子ってヤツで、二人でこの屋根瓦工場で働いている。
「ママは『一人前の屋根瓦職人になったら結婚してください』っていうパパとの約束を守ってくれたんだ」
「けっ。男が女をかっこいいとか思うなんてかっこ悪ぅ!」
「健ちゃんにもきっとそのうちわかるよ」なんて父ちゃんは言うけど、男が女をかっこいいと思うなんて、やっぱり情けなくないか?
────
──────……
だけど、運動会のリレーの時。
僕は、隣のクラスの栞ちゃんに負けた。
本当にめちゃくちゃめちゃくちゃ悔しかったけど、汗に光る栞ちゃんの横顔が、物凄くかっこよく見えて。
ああ、こういうことなのか。
こういうことなのかなって思った。
【おわり】
三題:『スパーク、屋根瓦、約束』
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