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「どうれ旅人さん、ちょっと聞いてくかい、昔の話だけどね。」
二人は近くの腰掛に腰掛け、村人の話は始まった。
「あれは、もう30年近く前のことだった。一太郎さん、その時は村で評判の、そっぅれは優しい青年だったんだぁ。俺も一太郎さんも20と幾つか…若かったぁ。」
「そうだったんですか?そんなに優しかった人が今じゃとんだ薄情者だなんて、よっぽど何かあったんですね。」
「ああ。…いやぁ、あの人は、優しすぎたのさ。」
「優しすぎた…から?」
「優しすぎたから、あんなになっちまったんだ。…それはある日のこと。」
「ある日のこと。」
「ある日のこと、村に隣町の大金持ちの茂原屋が来たんだあ。茂原屋は当時奥さんが切り盛りしてたんだが、何せ高齢で足腰が悪かったんだ。この村についた途中で、歩けなくなっちゃって宿までたどり着けずにいたんだ。」
「はあ。」
「そんなところに、村一番の優しい男、一太郎さんが現れた。たまたま道を歩いてたら、道の真ん中で膝をついている茂原屋の奥さんを見つけた。」
「それで…助けたんですか?その奥さんを。」
「そういうこと。一太郎さん、茂原屋さんを見つけるなり事情を聴いた。宿まで行けないっていうんでそのまま負ぶって運んでやったのさ。」
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