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罪なお返し
ある一人の旅人の男がいる。彼はあてもなく歩いていたが、どうにもにっちもさっちもいかないようで、何だか手持ち無沙汰気味にもなってきているので、目の前に見えた小さな村にひとまず滞在することにした。なぁんだ、なかなかのどかではないか。良い意味で味気のないような、それでいてほのぼのとした風味のある印象を村に抱いた男であった…が、ふと右の奥に眼をとめた。
「何だありゃ」
こっからじゃぁ声は聞こえない。でも、どうやらある初老の男性がしかめっ面をして腕を組んでいる。そこへ中年の女性が何とかお願いをきいてもらおうという様子であったが…とうとう女性はあきらめて何か捨て台詞を勢いよく吐いたかと思うとふんっと踵を返してどこかへ行ってしまった。男性の方は顔をしかめたまま、やがて家の中に入っていった。
あぁりゃ、とんだ頑固じじだ。
気になった旅人の男は気付けば近くにひょっこり出てきていた村人の男性に話を伺うことにした。
「あのうすみません」
「はぁいよ…あれぇあんたどこの人だい?…なあに、旅人さんかい。…それで、どうしたんだい?」
「いやあ実はここらでひとます休んでいこうとおもいまして。…宿はありますか?」
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