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それから数時間後、奈緒美は荼毘に付された。火葬のスイッチは勇が押した。勇は祖父に「母を送って上げて下さい」と勧めたが「奈緒美はこんな頑固親父より君に送ってもらいたいだろう」と言われ、固辞された故に勇が一人で押すことになった。 骨上げの際、勇は奈緒美の骨を食べた。ただ苦いばかりで、涙を流すことしか出来ない…… 後にして考えてみれば骨の苦さではなく、頬を流れる涙が口に入っただけもしれない。 それを横で見ていた仁が勇に問いかける。 「ばあばのおほねおいしい?」 美布は「こら」と言った感じに仁の口を閉じる。そして勇は笑顔で泣きながらこう答えた。 「おいしいわけがないだろ」と。 葬儀が終わり、照義達は葬祭場で香典を纏めていた。勇は「僕、計算苦手なんで叔父さん達に任せます」と、全てを照義達に一任していた。 「そうだ。勇から貰ってるのがあったんだった」 照義は勇から一枚の分厚い封筒を渡されていた。その封筒の裏面には「共弥美俊子」と達筆の筆文字で書かれていた。 「あの噂の俊子さんか。大方、奈緒美姉さんが亡くなったことを知って送ってきたってところか」 「でも、勇が受け取るかしら」 「文さんはお見えになって、別に香典頂きましたけどねえ」 「受け取らないと面倒なことになるから、勇に投げるようにして押し付けたってところじゃないか」 照義は分厚い半紙の封筒を開けた。中から滑り込むように出てきたのは、紅白の祝儀袋であった。 香典の纏めを行っていた朝倉の一族は唖然とした。祖父は「奈緒美に何があってこんなことをされなきゃいけないんだ!」と照義や姉二人に尋ねるが、誰も何も言わないし、言えない。 祝儀袋の分厚さからして、相当な額が入っていることが予想出来たが「こんな金は受け取れない」として、帰りの道中のコンビニエンスストアのゴミ箱に捨ててしまった。 そして7年後…… 勇は助教授から教授に昇進した。 共弥美家の終焉もその年になる。
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