4

2/28
269人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
「長野県の村で行われて『いる』そうなんですけど」 勇はその学生の言葉に違和感を覚えた。何故に「いる」と現在形で言うのだろうか。おじろくおばさは昭和の中期に最後の3人が亡くなっているとレポートを読んだことがある。ここで過去形ではないのは何故だろうか。 勇はその疑問を学生に投げかけた。 「もうそのおじろくおばさはいないのではないか?」 すると、学生はスマートフォンで都市伝説サイトを開いてみせた。そこには現代に残るおじろくおばさを紹介した文章が書かれていた。勇は斜め読みで「社畜こそ現代のおじろくおばさではないだろうか」の一文を見つけ、勇は脊髄反射的に言葉を放った。その口調は荒く、不機嫌な時のそれであった。 「おいおい、今の社畜がそれに近いってオチはやめてくれないか? 民俗学と言うよりは心理学の範疇になるよ。これを研究したいなら、ここの付属の大学病院の心療内科に中国人の銀先生って人がいるから、その人の力を借りるといい」 「いえ、そうじゃないんです。今もそれを続けている村があるって」 勇は気分を落ち着かせるためにコーヒーを呷った。マグカップを握る手は汗でびっしょりと湿っていた。 学生は都市伝説サイトを下にスクロールしていく。そこに出てきたのは「今もなお行われるおじろくおばさの村」であった。それには実際にその村に行ってきた管理人のレポートが書かれていた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!