プロローグ

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「じゃあ元久先生、いつ大学の方に向かえば宜しいでしょうか」 「何なら今からでもどうですか? 私、今日の講義が終わって暇をしていた所だったんですよ」 願ってもない話だった。テレビ局のディレクターと言うのは取材をしている段階では案外自由時間は多いものである。他に担当番組も無く「現代に生きる華族」の一本の仕事のみ故に、寝る以外の時間を全て取材に費やしてもいいぐらいであった。 私は元久教授の言葉に甘えることにした。 「それじゃあ今から向かわせていただきます」 私は元久教授の大学に向かうのであった。  駅舎を出るとそこはもう大学敷地内であった。 改札口を出てすぐにあったコンビニエンスストアで菓子折りを購入した。 チョコレートとクッキーが半々で入れられているよくある菓子折りだ。私はいつも取材をする時にはこの様な菓子折りを持っていくことにしている。 大学敷地内を歩くと多くの学生が我が世の春を謳歌していた。 いわゆる「チャラい格好」をしているのが大半だが、無個性な紺色のスーツを纏った如何にも就職活動ですと言わんばかりの学生も僅かに見受けられる。  大学の受付で入館許可を貰い、元久教授の研究室の場所を聞きそこに向かった。 近頃の大学はキャンパスタワー風の塔を思わせる造りになっている。元久教授の研究室はそこの中腹にあった。運動の為に階段を登ろうと思ったが元久教授の研究室が7階にあると聞いてやめておいた。体力勝負のテレビマンとは言え、近頃は運動不足、徹夜作業が出来ると言う意味の体力とは違う。 多分、5階ぐらいまで登っただけで私の足は棒の様になるだろう。  元久教授の研究室前に到着した。こんこんとノックをすると、中より電話で聞いた腰の低そうな壮年の男の声が聞こえてきた。 「どうぞ」 ドアを開けるとそこは如何にも研究室と言った風体の部屋であった。八畳間か十畳間と言った感じの部屋の壁一面に立てられたスチール製の本棚、そこに入れられた本は全て民俗学の本である。
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