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「もう婆ちゃんに旅行連れてって貰えないのか」 寝室に帰るなりに慶は舌打ち気味に宣った。あの様な子供を抱えていてはもう旅行なんて行けないと思った慶の無神経な発言である。 「こういうこと言うもんじゃない」と、奈緒美が慶を嗜めた。 「僕たち、あの子とどう接したら良いんだろうね」と、勇が尋ねるが、他の3人は黙ったままである。その空気の重苦しさに耐えられなくなった勇は屋敷内を見て回ることにした。別に目的も何もない単なる散歩であった。 「あの爺ちゃん元気かな?」 勇は「はなれ」に顔を出すことにした。はなれに入ると、前までとは光景が変わっていることに驚いた。 雅紀が寝ていたはずの介護用ベッドはなく、そこは単なるスペースになっていた。さすがに旦那の家で嫁の父親が介護されるのはおかしいことに気がついて実家に帰ったか老人ホームにでも行ったのだろうと勇は思うのであった。 「勇ちゃん、どうしたの」 急に声をかけられた勇は心臓が飛び出る程に驚いた。声をかけたのはうめであった。 この家に来てうめに会う度に勇は思うことがあった。心なしか痩せこけて老け込みが酷くなっているように見受けられたのである。 「どうしたんだい? こんなはなれなんかにきて」 「えっと…… ここに俊子叔母さんのお父さんいたと思うんだけど? どうしたの?」 うめは驚いたような顔を見せた。そもそも何故に勇がこれを知っているのだろうか。文達一家には隠していたはずなのに、どうして知っているのだろうか。今はそんなことはどうでも良い。あの人の存在は隠さねばならない。 「いんや、俊子さんのお父さんがこんなところにいる筈がないじゃないか。今でもお里で達者にやってるよぉ」 「でも、去年ここで会ったよ」 「夢でもみたんやろぉ? ここうろうろしていると、俊子さんにまた怒られるよぉ?」 「はーい」 うめは去りゆく勇の後ろ姿を黙って見送ることしか出来なかった。本当ならば全てを喋ってしまいたい。だが、これをすれば皆に迷惑がかかる。 それ故に、口を閉じることしか出来ない自分の弱さを呪うのであった。
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