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「こういうこと考えるんだったら、ともちゃん生まれたすぐとかにやるよね? 生まれて数年は放ったらかしにしないと思うんだけどな?」
鋭い餓鬼だ。義和は我が孫ながらにこんなことを思う。義和は内心焦りを覚えていた。
「それに井戸って龍神様が宿るって聞くよ? 井戸は喉みたいなもんだって。ああやって塞ぐと、龍神様が息が出来ないって怒って家に不幸を招くって聞くよ? それ考えてずっと井戸の口を閉じずに大事にする家が多いって聞いたんだけど」
何でこんな子供が井戸に対して詳しいのだろうか。華族の家で育った義和でも今の勇と同じ齢の頃には、まだそこらで青鼻垂らして野山を駆け回っていたと言うのに。文や奈緒美さんが教育をちゃんとしているのだろうか。
勇が聡明に育ったことを祖父として喜ぶ場面であるが、今はそれどころではない。誤魔化さなければいけない。
「良く知っとるのう。でもこの平成の時代にこんな迷信を引きずってはいかん。もし、ともちゃんが落ちでもしたら取り返しがつかんじゃろ?」
「それはそうだけどさぁ……」
勇は義和の様な老人が井戸の決まりを迷信扱いすることに激しい違和感を覚えていた。
「あ、鯉の餌終わっちゃった」
勇はそのまま屋敷の中に入った。勇の追求を逃れたことで義和は「助かった……」と、安堵した。勇がした龍神様の話は概ね正しい。それだけに罰当たりなことをしたと義和は後悔していた。3人の人質、いや、もっと多いかもしれない。その人質に刃が向かないようにするためにその罰当たりなことをしてしまった。我々は俊子と言う悪魔に従い神に背く道を歩いているのだが、もう後戻りは出来ない。
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