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 その後、大広間で全員を交えての話し合いが行われた。勇は顔をくしゃくしゃにして泣きながら身の潔白を皆に訴えかけた。この中の誰もが「ともちゃんが勝手にズボンを脱いだだけじゃないか」と、言う結論に辿り着いていた。ただ一人を除いては。 「勇が巴にイタズラしようとしてたんだよ! もう少し帰りが遅れたらどうなっていたことだか!」 「それはさすがに婆ちゃんの被害妄想だよ」 慶が勇を庇った。普段は一から十まで俊子に従い通しの慶までもがこんな事を言い出すぐらいに俊子の主張は無茶があった。 「慶、こんな出来の悪い弟でも庇うぐらいに優しい子に育ったんだねぇ」 俊子は慶の頭を優しく撫でた。この時、慶は俊子のその手に対して不快感を覚えてしまった。 駄目だ。話が通じない。慶は俊子がこんなに話の分からない人だったかなと首を傾げた。 話は平行線。俊子以外の全員が勇は悪くないと主張するが、俊子の耳には届かない。 勇も泣きながら真実を話すが、俊子の耳には届かない。 つまり、何を言っても「無駄」と言うことである。 「つまり義姉さんは勇がどうあってもイタズラをしようとしたとお思いなんですね」 「そうよ、この子はロクなものじゃないわ」 俊子の言うそれを聞いた瞬間に奈緒美の腹は決まった。 「分かりました。自分の子をそこまで侮辱されてはこの家にはおれません。あたしはこの子を信じています」 「ろくでもない母からは…… やっぱりろくでもない子が生まれるんだねぇ!」 この発言は自分が溺愛する慶までも侮辱したことになるのだが、俊子はそれに気がついていない。 「文さん。あたしこの家にいれません。あなたと夫婦で在る限りこの家からは逃れられません。別れましょう」 共弥美家、いや、俊子から逃れる為に考えた結論であった。奈緒美が俊子からこの12年間受けてきた凶行に対する怒りがついに爆発したのである。 「出ていきなさい。そして親子共々野垂れ死になさい」と、俊子は冷たく言い放った。奈緒美はそれを一瞥もせずに勇の手を引いて広間から出て行った。 それを追いかける文と慶。 「お母さん、本気なのか? 離婚って」 「ええ、本気です。あんな頭のおかしい人の元に一緒にいられません。親戚であるとすら思いたくありません。12年前に気づいていたのに、あたしが弱いせいで勇をこんな怖い目に遭わせた自分が許せません」 「なぁ? 勇、とりあえず謝っちまえよ。謝ればまだ許してくれるかもしれないぞ? 俺も一緒に謝ってやるから!」 慶が勇の手を掴み、謝るように促した。普段から俊子には優しくされている為に、今回はたまたま虫の居所が悪く癇癪を起こしただけで、実は優しい人だと思い込んでいる節があった。
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