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 三ヶ月後、勇は学校にまで行けるようになった。入学初日にゲロ吐いた奴と始めはからかわれこそしたが、数日後には笑いのネタにするまでに昇華していた。  中学校に入って、初めての夏休みを迎える頃にはすっかり元の明るい少年に戻っていた。そんな中、照義は勇に夏休みにどこに行きたいか尋ねた。 その答えは照義の予想だにしないものであった。 「伯父さんと一緒に民俗学の研究したい?」 「え? 伯父さんと一緒にいてもどっか田舎の因習調べたりとか、ずっと本の虫だぞ? 遊園地とかの方が良いんじゃないか? しかしお前なんで民俗学なんて興味あるんだ?」 「うん、小学校の時に一人で南の島に行ったことがあるんだ」 「ああ、姉ちゃん言ってたな。勇を南の島に行かせたって」 「そん時にね、物凄く派手なライオンみたいな獅子舞を見たんだ。普通なら怖いって思うんだろうけど、僕それを見て綺麗だなーって」 「南の島でライオン? バロンか?」 バロン。東南アジアに伝わる獅子に似た聖獣の事である。別名をバナスパティ・ラジャ(森の王)と言う。 「中国の唐獅子に似てるんだけどね、どっちが先に生まれたのかとか、気になるじゃん」 普通の子供は気にしないぞ。照義は苦笑いをした。 「気になってね! この南の島の歴史や因習を調べたらずっと昔…… 奈良時代ぐらいに中国人が流れ着いて広めたんだって! こういうのを調べるのが民俗学ってことだよね? それがすっごく面白いんだよ!」 子供のように(まだまだ子供であるが)目をキラキラとさせて喋る勇を見て照義は「この子はこの分野の才能を伸ばしてやればきっと凄い教授になる」と言う才能の光を感じた。こいつの為に出来ることをしてやろう。と、言う気になっていた。 「よし、今日から伯父ちゃんの助手だ。手抜いたら怒るぞ」 「うん! 手は抜かない! 真面目にやる!」
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