プロローグ

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プロローグ

 共弥美家。(ともやみけ)戦前までは華族として栄華を誇っていた名家である。 先の大戦が終わり、「貴族制度の禁止」を定めた憲法の施行により共弥美家は華族ではなくなった。 こうして華族制度が無くなった後でも華族達は「旧・華族」として、家々同士で親睦を深めこの国の政治の中枢や大企業のお偉方などと言った感じの上流階級として今尚栄華を誇っている。 共弥美家はそんな「旧・華族」の内の一つであった。  テレビ局のディレクターである私は、上司より「現代に生きる華族」と言う番組を作るように言われてしまった。こんなお硬い番組を誰が見るのだと思うだろうが、意外に需要はあるらしい。ちなみに金曜日の夜の有名映画の裏番組でひっそりとやっているオカルト番組の枠である。 いきなり「旧・華族」を探せと言われてもな…… と、思いながら私はインターネットで「旧・華族」と検索ワードを入れて探してみた。 出るわ出るわ、旧・華族の一覧。今そのやんごとなき方々はどんな地位にいるかもご丁寧に記載されている。元、○○家…… 現在はと言った感じだ。 出来れば直接取材を申し込みたいのだが、その現在が問題で「政治家」「官僚」「どこかの社長かそれに近い役員」などと言った富裕層ばかりでこんなオカルト番組の取材なぞ受けてくれる訳がない。 直接電話で取材を申し込もうとするが、インバウンドのオペレーターの慇懃無礼かつ懇切丁寧なお断りを受けるのであった。  旧・華族に直接コンタクトを取るのを諦めた私はアプローチを変えてみる事にした。 この手の話には絶対に詳しい人がいるはずだ。ならばその詳しい人に聞けばいいじゃないか。漫画やアニメだって作者よりファンや読者の方が詳しい昨今、華族に関しても華族本人より詳しい人がいない訳がない。そこで私は片っ端から華族に関して研究をしていそうな大学教授に連絡を取ってみた。 この作戦は成功した。都内の大学にて民俗学を専攻している教授の元久(もとひさ)氏を見つけた私は早速取材の申し込みをすることにした。民俗学と言うだけに未開の田舎の生活の研究でもしているのかと思ったが、その実、戦後に貴族制度が廃止された後に地方に居を構えていた貴族や華族の研究までしていると言う。 正に今の私にとってうってつけの人材であった。
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