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時は平成初頭に流れる……  勇に物心がつき、物事の分別が付くようになっても共弥美一家の長期休暇は共弥美の屋敷で過ごすのが恒例となっていた。 そこでは兄の慶は王子様の様に扱われ、俊子からは目に入れても痛くない程に可愛がられていた。対して勇は無視されたり怒鳴られてばかりであった。 慶は玩具やお小遣いを貰えるのに、勇には何も与えられない。 屋敷内で慶と喧嘩になれば無条件で勇が悪いことにされ、俊子から鬼のように怒鳴られるのであった。 勇は幼いながらに「差別されている」と感じる様になっていた。 当然、俊子のことは蛇蝎のように嫌う様になっており、そのことでこれまで俊子にずっと優しくされて心酔している慶と喧嘩になることは日常茶飯事であった。 「お前何でお婆ちゃん嫌うの? 何でも買ってくれるいい人じゃん」 「それお兄ちゃんだけでしょ! 僕、叔母さんに何もしてもらってない!」 「お婆ちゃんだろ! 叔母さんって言うなよ!」 「知ってるよ! お父さんが叔母さんの養子になってるからお婆ちゃんってことになってるんだ! 紙の上だけ(戸籍上)の話でしょ!」 「うるせぇ!」 慶は勇を殴りつけた。4歳年上である慶にとっては勇を殴り飛ばすことなど容易である。更にそこから踏みつけにかかる。その喧嘩は文が力ずくで止めることでしか止まらない。 「何でお前みたいなのが弟なんだよ! うぜぇ!」 こう吐き捨てて慶は自分の部屋に戻っていく。慶の部屋には文も奈緒美も買いもしないのに最新鋭のゲーム機の全機種が集結しており、ゲームソフトも本棚が全部埋まるぐらいの量があった。勿論、俊子にねだって買ってもらったものである。その他にも数万円もするグローブやバット、サッカーボールなどがあり、友達が遊びに来て「お前んち金持ちだな」と羨ましがられるような状態となっていた。生活レベルはその友達の家と同等である。ただ、色々なものを送ってもらえる慶の状態が異常なだけであった。 勇の部屋は至って普通であった。ゲーム機こそあれ、ゲームソフトは誕生日とクリスマスぐらいしか買ってもらえない為に小さな段ボールに収まるぐらいの量しかなかった。
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