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――20XX年 5月10日。ドイツ――ミュンヘン。
午後1時24分。リン・メイは大通りに面したアパートの一室にいた。薄緑色の襟ぐりの広いシャツに白い膝丈のスカート、胸元では『L・M』の装飾があしらわれた金色のペンダントが煌めく。
小さな窓の外では、小鳥が軽やかに囀っていた。家事もひと区切りついた残りの時間、ゆっくりしようと淹れたばかりのコーヒーをカップに注ぎ、4人用の木製テーブルに向かう。
「あら?」
こてんと傾げた首の動きに合わせて、肩までの黒髪が揺れた。片付け忘れていたのか、床の上におざなりにされた折り紙を見て、とても懐かしい思い出がよぎる。
(そっか。もう、19年も経つんだ……)
あの日も丁度こんな陽気だったな――と木製テーブルの椅子に腰を下ろし、湯気の立つコーヒーをひと口、ふた口含むと思わず頬を緩ませた。
それは一時の回顧。テーブルに両肘を置き左手で頬杖をついたまま、彼女は暖かな午後の陽気に誘われて、うつらと微睡む。
これは、彼女――リン・メイの物語である。
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