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#.01 side L ‐邂逅‐
19年前。きっかけは、父親の死だった。
まだ正午も回らない頃、粛々と執り行われた継父の葬儀。皮肉にも通りに面した共同墓地のその傍らで、広葉樹は青々と息づいている。
血の繋がりがないにも関わらず、彼は本当の家族のように接してくれた。だから彼女も父親にだけは心を開けたのだ。
だが、その父はもういない。後ろでひと纏めにした髪と黒いワンピースに身を包み、参列者もまばらな墓石の前でこれからどうしたものか、悲しみと思案に暮れていると、
「レディ・メイ?」
背後から何者かが低くよく通る声で呼ぶ。
「――っ!?」
特定の者しか知らない呼び名に半身を捻り振り返ると、そこにはスーツ姿の1人の男が立っていた。くすんだ金髪に青い目をした彼は、縁なし眼鏡の奥から窺うようにこちらを見つめ返答を待つ。
(この人、どこかで……)
歳は26から27といったところだろうか。自分よりも背丈が頭ひとつ半と高い、彼とどこかで会った気がしてならず、自身の記憶を手繰り寄せながらこくりと頷く。
すると「ああ、やっぱり」そう言って安心したようにくしゃりと笑顔を見せる。
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