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「あなたは、そんなことしないわ。目を見れば分かるもの」
その言葉には、さしものハルも面食らわされた。確かに、いくらあられもない姿を晒されようと、本能が語りかけようとそのようなことをする気はなかった。
窓ガラスを叩く雨音が一層強まり、屋内に響く。
「でも、ハルになら見られてもいい……かな」
一瞬目を伏せ、再び黒い瞳がじっとこちらを見つめる。『見られてもいい』ーーいったい何を言っているのか。
しかし嘘のない真っ直ぐなその目に、まるで一片の澱みもない水面を掻き乱されるかの如く胸の奥がさざめき立つ。きっと彼女は、今、自分がどんな目をしているのか気がついていないのだ。
返す言葉に詰まった末、するりとバスタオルから手を放し、吐息混じりに大きく1歩後退する。同時に半歩右に踵を返し誤魔化すように一言。
「冗談は兎も角、風邪を引くから早く着替えた方がいい」
そして言い終えるや否や、くるりと背を向け、逃げるかの如く足早に大階段を上がってゆく。リンの部屋とは真逆に位置する自室の前でようやく足を止め、ドアを開けようとしたその時、
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