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自身が高校を卒業して間もなくその事実を思い出したのだが、驚いたのは彼が当時のことをずっと覚えていたと聞いた時だ。
あの時交わした約束『いつか必ず迎えに行く、一緒にいよう』ーーつまり彼はそれを守り、貫き徹したのだ。これほどまでに嬉しいことはない。
ひとしきり思いを巡らせ、リンは肩から力が抜けるように嘆息する。幼い頃とはいえ、なぜ自分だけ忘れていたのか。
あの時交わした約束も、彼の名前も、渡した折り紙もーー。
考える度に情けなくなり、思わず傍らに置いてある折り紙に視線を送る。そしてゆっくりと左手を伸ばし、その中から1枚、緑色のものを選び出す。
もう一度あの時と同じ鸚哥を折ろうとしたが、どうやらすっかり手順を忘れてしまったらしい。仕方なく諦めて席を立つと、穏やかな風が吹き込む窓際へ足を運ぶ。
「いい天気……」
時刻は午後3時過ぎ、雲間からやわりと差す陽光を受けながら、リンは天を振り仰ぎ独りごちる。肩の辺りで切り揃えられた黒髪が、頭の動きに合わせてさらりと揺れた。
窓枠についた両手のうち、左の薬指に光るもの。彼女のイニシャルである『L・M』の装飾がついた金色のペンダントと同じ、だが少しピンクの入ったそれが、現在の幸せを象徴していた。
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