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自分だけ心理テストに引っかけられたことが悔しくて、どうせなら彼も巻き込んでやろうと話を振った。だが、
「ん? 僕かい? そうだね……」
特別慌てた様子も見せず、左肘をついた手で持っていたフォークをケーキに向ける。そしてその先端を苺に突き刺す。
白いクリームの飾りをつけた深紅のそれを口元まで運ぶと、悪戯染みた視線をこちらに送り言った。
「僕は、気に入ったものは一番初めに食べるかな」
眼鏡の向こうの青い双眸にオレンジの明かりが映り込む。ゆらりと揺らめくその光は、いつかのあの捕食者の眼差しを想起させ、胸の奥がざわめく。
“一番初めに食べる”ということはどうなるのか。
(気に入ったもの……)
わずかな動揺を圧し隠し、リンは思考する。もし彼が本当のことを言っているとすれば、恐らく自分はその気に入ったものにすら当て嵌まらないのかもしれない。
一瞬にして口の中へ消えた苺を見つめながら、心の内でさざめき立つ波に不穏な風が吹き荒れた。『妹』のままは嫌だーーいつしかそう思うようになっていた。
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