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「駅前のマックで午前十時に待ち合わせ」という前々日のラインに従い、私は約束の五分前にいちごシェイクを買って、店内を見回す。少しヒールの付いた靴を履いてきたので、その分だけ若干視界が高い。
ざーっと眺めていると
「あっ、こっちこっちー」と私に顔を向ける晴日がいた。
急いでそっちに向かい、彼の正面に座る。
「おはよう」「おはよう」
晴日は白いパーカーにジーンズを履いていて、シンプルだけれどもよく似合っていた。よく見ると赤いスニーカーもいいブランドのもので、ファッションには気を使っていることがうかがえた。
対して私は、黒いシャツに赤いスカートを合わせただけで、おしゃれかと言われたら首を傾げてしまうレベルである。一応ちょっとアクセサリーを付けたりメイクしてみたりはしたものの、さっぱりだ。
「香って私服こんな感じなんだね。意外だったよ」
はい、ほら、引かれましたよ。
「似合っててすごいいいと思う」
「え、ありがとう」
そう言われて、嬉しくなる。お世辞かもしれないのに。
晴日は私がいちごシェイクを飲み終わるまで、話をしながらゆっくり待っていてくれた。
転校のことは、やはり親の仕事の都合によるものだったらしい。
とても急に引っ越すことが決まり、準備や手続き、転校先を決めることなどを非常に短期間でやってしまう必要があり忙しかったそうだ。
今の家に生まれてそこから一度も動いたことのない私には縁遠い話だったので、新鮮で面白かった。
そうして私がシェイクを飲み終わったころ「行こうか」と彼は言った。
「どこに行くの?」と尋ねると
「着くまでのお楽しみだよ」
と楽しそうにそう言って、はぐらかされてしまった。
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