プロローグ

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学校を出たころには、もう外は真っ暗になっていて寒々しく、その分空の黒が深かった。  イヤホンを取り出してプレーヤーを指先でいじり、耳を好きな音楽で満たしてから歩き出す。  私の家と学校は二、三キロくらい離れているが、ぴったりのバスが無くそのまま歩いて帰ってしまう方が手っとり早いので、いつも黙々と一人で歩いて登下校しているのだ。  一緒に会話する人がいないので、必然的に自分ひとりの中だけで思考がぐるぐる循環する。  もう二月も半ばか。  今年もなにも面白いことはなかったな。  恋が、したかった。  誰かを本気で好きになって、毎日その人のことばっかり考えて。頑張って告白して、もし恋が叶って、抱きしめてもらえたらどんな気持ちなんだろう。  今日だって、好きな人がいたらもう一世一代の大イベントだったのだろう。  でも、渡したい人なんて、誰もいなかった。私の理想が高いんだろうか。  優しい人がいい。価値観の合う人がいい。私のことを考えてくれる人がいい。趣味のことを共有できる人がいい。  確かにこれは理想が高いのかもしれない。世間の人全員がこれに合致する相手を見付けていれば、世の中で別れ話や離婚なんて現象は起こらないだろう。  面白くないな。つまらないな。  自分がなにもしようとしないのが悪い、という人もいると思うけど何かしたいと思わせる人がいないのも問題なんじゃないか。  とにかくつまらない。平凡すぎる。  一度思考の方向が決まってしまうと、延々とそのことを考え続けてしまうのが私の悪い癖だ。
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