名残橋 ~闇に溶ける蛍~

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名残橋 ~闇に溶ける蛍~

 家具も何も無い部屋に入ると、いつもそこには、小さな幼子がいた。 男の子だった。男の子は一人、私を見上げ泣きじゃくっていた。 私は何故か、その子に向かってごめんね、ごめんねと言い続け背中を撫でたりして、宥めすかすのだ。もう一人にしないから、いっしょに行こうねと。今日もそこで目がさめた。  最近、毎晩この夢を見ている。夢というものは、おおよそ現実離れしていることが多い。 どうしてこんな夢を見続けるのか、ヨシエには皆目見当が付かなかった。  子供達はとうに、独立して別々に住んでいる。息子は一人居ることには居るのだが、幼い頃より親離れが早く、幼稚園に上がる時にも、全く泣かない子供であった。逆に、親のヨシエのほうが、それまで片時も離れずいっしょに居たこともあり、幼稚園に行かせる寂しさに涙ぐんだほどである。他の子供たちは母親と離れるのが嫌で、わんわん泣いているというのに、一抹の寂しさを感じたのだ。  あの時、息子があまりにも聞きわけが良すぎたことがいまだにショックだったのかしらね、と苦笑した。ヨシエは、それにしても毎日見る夢に何の潜在意識がこんな夢を見させるのだろうと不思議に思った。     
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