今、なんて言った?

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 次の日、待ち合わせ場所に現れたのは、茶髪の美女で、声を掛けてきた時、人違いじゃないかと思ってしまった。あの職場の、黒髪で黒縁眼鏡からは想像もできないくらい華やかな服装をしていた。7分袖丈のAラインのワンピースで、ライトグレーの生地に大きめのピングの薔薇の絵柄となっている。色合いは、マリー・ローランサン調だ。胸元には、黒真珠のネックレスが鈍く光っている。  「ねぇ、髪は?」と僕が訊くと、  「ウィッグなのよ。」と彼女は答える。  「今のが?」   「いいえ、オフィスの方よ。」  「へぇ、驚いた。じゃあ、こっちが本当の君?」  「まぁね。」と得意げだ。  なんだか、正月のデパートで福袋を買ったら、とんでもない高価なものが入っていたような気分で、嬉しさが心の奥底からぽつぽつと込み上げて来て、僕は思わずニヤニヤしてしまっていた。  「ごめんね。君がどんなファッションで来るかわからなかったので、ちょっと地味な恰好で来てしまったよ。」と僕は後悔を口にする。  「いいのよ、ちゃんとしてるじゃない。紺のブレーザー、似合うわ。」  「ありがとう。で、お昼和食でいい?」  「いいわね。」    和田倉は、土曜日のお昼なので少し混んでいて、予約しておいて良かったと思った。僕たちは、窓から一列内側のテーブル席に座り、僕の左側、彼女の右側に皇居外苑の緑が鮮やかに広がっていた。今日は天気が良いので、室内から見る外の明るさは眩し過ぎるくらいだ。  いやいや、どうしたことだろう。派手で綺麗な女と一緒にいると自分まで格が上がったような錯覚に陥る。で、何の話をすればいいんだっけ? それがこのデートについては、向こうから強引に持ち込まれたような感じだったし、そんなに期待もしていなかったし、いろんな面で準備に欠けていて、容易にトークネタが出て来ない。  そんな心配事は他所に、彼女は、目をキラキラ輝かせながら、さっそく僕の高校時代の部活について質問を浴びせ始めた。  「ねぇ、あなたの学校って、あのウォーターボーイズのモデルになったんでしょ?」  「そうだけど。」  「妻夫木みたいなカッコのいい男子っていたの?」  「ツマブキ? あぁ、そこそこカッコいいのもいたけど。」  「で、あなた、モテたの? クラスメート? 別のクラスの女子?」  どうやら、彼女は僕たちが男子校であることを知らないらしかった。  
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