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僕がシンクロのことを余り話さないのを不思議に思ったのか、彼女が畳みかける。
「練習って、水族館でガラス磨いたりするの?」
「あれは、映画の演出さ。」
「じゃあ、どんな練習?」
「まずは、立ち泳ぎかな。」
「私のお兄ちゃんが水球部だったのね。日大の付属校の。」
「それは、凄いね。」
「だから、立ち泳ぎ、教えてもらったことあるの。」
「できるんだ?」
「まあね。見たい?」
「うん、一緒に泳ごうか。」
彼女は、こっちを見て、キラリと目を光らせて、あっさり切り出した。
「美術館やめて、プールに行く?」
「プール?寒くないか。」
「馬鹿ね。ホテルの室内プールに決まってるじゃない。」
「あぁ。」と言いながら、母校の古びた25メートルプールを思い出していた。もちろん野外にあるので、春先まで寒くて使用禁止になっている。冬季は、いつもあの傍をランニングしながら、早く暖かくならないかなぁといつも思っていた。
「でも、水着はどうする?」
「ホテルに売ってるわ。早く。ネットで予約して。」
僕は、スマホを取り出して、「都内・ホテル・室内プール」で検索する。すると、なんと、灯台下暗しで、ここのホテルに瀟洒な屋内プールがあるのがわかった。
「このホテルにあるよ。」
彼女は、その言葉を聞くと、ニンマリして、軽く頷く。そうか、それで、パレスホテルでランチって言ったのか、こいつ。完全に主導権を握られてしまっている。ということは、美術館はフェイクだった訳か。ちょっと待て、彼女は何がしたい?俺の体型を見たい?それとも、自分のボディラインを見せたい? それって?
頭の中でぐるぐるそんなことを考えていると、彼女が顔を覗き込むジェスチャーをして、「また、ボーっとしてる。」と僕を注意する。
「ごめん、ごめん。薔薇のように美しい君を眺めていたんだ。」
「嘘。私の裸を想像していたんでしょ?」
「えっ!」
直球ど真ん中に投げ込んでくるな、この女。
「うん、実はね。」
「やだ、私は、競泳用の水着しか付けないわよ。」
「へぇ。そっちの方がビキニなんかよりセクシーだったりして。」と僕は笑う。
「そ、そういう趣味だったの。ブルマ着てあげようか?」
「鼻血出ちゃうよ。」
ゆかりが、こういう会話は楽しくて好きだ。こんな風に話す女性とは想像していなかった。
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