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この地を選んだのは、住所を覚えやすかったからだ。「またかわったのか」と馴染みの客に言われるのは慣れていたものの、このくらい人出のあるところで死んだ方が残される物にとっては良いように思えた。町の商店街から数十m離れた住宅街。隣に店があったのは計算外だったが、花なんて自分には関係ないものだと割り切ることにした。それなのに
「おじさん、大丈夫ですか!?」
車に乗り込もうとして、腰を痛めてしまった。動けずにいたところで声を掛けてきたのは、特徴的なヘルメットを抱えた娘だった。
「だまれ」
「お買い物なら行ってきますし、他の用事でも」
背中をさすられたところで、どうにかなるものでもなかった。茶色いエプロンの胸元についた花のマークでさえ、腹立たしい。
「馬鹿にするな!」
大声を出したところで、咳き込んでしまった。激痛が走ったときには手が止まっていて、悪意さえ感じられた。
「ええ、馬鹿にします。だっておじさん、挨拶さえしてくれなかったでしょ」
痛みをこらえながら顔を上げると、うっすらと眉毛のつながったあどけない少女の顔があった。
「おかげで隣の家には幽霊が住んでるなんて噂になるし、弟だって真に受けちゃうんだから」
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