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そういえば、田舎にいた頃の幼馴染みにもこんな娘がいた。自分が正しいと思うことは、相手関係なく押しつけてくる。苦手なタイプだった。
「郵便局に行けばいいんですか」
助手席の段ボール箱を見れば、行き先は一目瞭然だった。おかげで、肩を貸されて家に入りながら「ふざけるな」という、とても格好悪いことになってしまった。
「いいですよ。そっちの方にも宅配があるので、ついでに行ってきても」
「あれはオンボロスクーターを5台売ってもお釣りが来る高級時計だぞ。それでもか」
布団の上に寝かされた年寄りの言葉なんか、目の前の若者には負け惜しみにしか聞こえないのだろう。
「ええ。それに私、免許取ったばかりだから、ちょうど遠出してみたかったんですよね」
なんてこった。腰をかばいながら起き上がったときには、すでに人の姿は見えなかった。
娘の父親だという男が店にやって来たのは、その翌日のことだった。
「昨日は娘がご迷惑をおかけしました」
人と接することを生業としているせいか、腰の低い穏やかな男だった。
「これを娘に渡してくれ」
郵送料と手数料のつもりだった。まだ腰が痛む中封筒を探し出す余裕もなく、生のまま。父親は慌てて、そんなものと言った。
「これでもう、うちには近づくなと言ってくれ」
一瞬、父親の表情が固まった。目が「子ども相手に嘘だろ」とでも言いたげである。
「...わかりました」
それから何度もお辞儀をして店を出た父親だったが、それ以降彼の姿を見たことがない。
しかし、である。父親に何を吹き込まれたのか、はたまた金なる木と思ったのか、娘は毎週のように店に来ては郵便局に向かうようになった。
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