最後のひと口、難しい匙加減

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 一緒にいた友人が目くばせをしてにまにまして出て行く。入れ替わるように「友人」と称した――恋人の彼が来た。  瑞希が伸びをして無防備なせいか、彼はからかうように小さく笑っている。 「なに? それ誘ってるの?」  抱擁をしたいのか、こちらに手を伸ばしてくる彼。瑞希は慌てて手を引っ込めて頭を振った。 「ちょ、ちょっと。公共の場でそんなこと言わないでくれる」 「はいはい」  向かい側に無造作に座った彼は、手提げから生協のテープが貼ってあるカップのコーヒーを出した。厚手のコートは着たまま。  ストローを挿す彼に瑞希は尋ねる。 「……ねえ、結局何もお店とか考えてないよ、どうしよう」 「その課題みたいなのは、いいの?」 「今はそんなこと言ってらんないもの」 「……何それ、都合良い」 「何とでも言ったら。それか、あんた代わりにやってくれるの」 「え? 英語っしょ? しかも英文学科専門のでしょ? 無理だー」 「医学部は英語くらい必須でしょう」 「ふーん、カタカナは必須だけどなぁ」  瑞希は失笑した。困ったように微笑んでいる健気な彼の姿。それ以上強く言えなくなった。  この情けない顔をしていつも医学部の講義棟を行き来しているのだからそれこそ悪戯じゃないかと思う。本人が苦しんでなければいいのだけれど。 「俺も全く考えてなくてさ」     
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