最後のひと口、難しい匙加減

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「え! 2限始まりだったんじゃないの? 1限の間の空きコマ何してたの」 「何って、普通に予習しとかなきゃだったから」 「何それ学生っぽい」 「何言ってんの」 「……うそって」  学生っぽい。瑞希とて一応授業は行くし、アルバイトもしていて、彼氏はいる。それこそ学生の象徴のような位置にいる。一応は。いざ口にしてみると歯がゆいけれど。  苦笑しながら課題のテキストとルーズリーフを適当にまとめて鞄に突っ込む瑞希。あっという間に出る準備ができた。コーヒーを飲み始めてしまった彼を見やる。待つべきかと。  少しして、瑞希は彼が手に持っているコーヒーに手を伸ばした。ぴと、と重ねてみる。 「なに? いる? ブラック」 「くれるの? もちろんいいよ、ブラックでも」 「ちょ、ちょっと、そう来るなんて思ってなかったんだけど」  慌てたような彼の声と共にコーヒーが引っ込められた。手が離れてしまった。 「何を期待したの」  呆然と呟く瑞希。 「まそれは最近の出来事を振り返って、さ」 「――何もないでしょ、別に。あんたいつもブラックコーヒー飲んでるんだから変哲がないのよこの光景に。――どっかの従弟が家でも飲んでるんだから」 「そう。……君って意外と出来事をよく分析できるよね」 「ね。あたしの名前知ってる?」     
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