最後のひと口、難しい匙加減

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   同じ世界であっても「よそ者」にとっては異世界に映るだろうし、外の世界を知らない者にとっては「よそ者」こそが異世界を象徴する。  内輪では「当たり前」。世界の外に出て初めて知る「当たり前ではない」。そのどこかで――「内と外」の境界で彷徨い、板挟みになる者もいる。  境界を旅することは生きていくうえで避けられない旅なのかもしれない。  そのうえ砂糖やミルクに絆されたコーヒーのように甘い旅ではない。  例えば文学部の学生にとって医学部の講義棟は異世界だ。いかにもプライドの高そうな建物がずらっと並び、ガラス張りになっているところも多くて光が反射し、見る者の目を眩ませる。  恐れ多いとさえ思わせるかもしれない。  新しい建物の多いところだから致し方ない。  その建物群の間を肩ほどまで伸ばした髪を揺らして歩く女子学生。肩には大量の本が入った分厚い帆布の手提げを掛けている。持っている本は英字ばかり。何とかこの建物に対峙できそうな雰囲気はあるものの、内容は全くもって抽象的で非科学的なものばかりだった。  建物群を何とかすり抜けて、まだ何とか大衆食堂の雰囲気を残している食堂に入った。 「どこかなぁ……」  見慣れない建物と威圧感と、忙しそうに歩いている学生や教員と思しき人ばかりで彼女はそろそろ落ち着かなくなってきた。上質などんぐりのような薄茶色の目がきょろきょろする様は、まさにリスが食べ物を探してうろうろしているようなものだ。  しかし入ってすぐに、彼女の目当ての人物は見つかった。 「あ!」  
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