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「じゃ、どうぞ」
溶けかけているアイスクリームをカップごと蒼に差し出す瑞希。蒼は微笑んで受け取った。
「もうひと口くらい普通に食べていい?」
言った傍から食べている。
そして次のひと口分。フィルムを剥いだカップ入りコーヒーにアイスがすっと入れられた。
驚いたように散る白い欠片たち。ちらちら舞い踊る欠片たちを、蒼が宥めるようにくるくるかき混ぜた。じゅわ……と魔法がかけられたように色が変わっていくコーヒー。
瑞希はそれを食い入るように見ていた。
すると、蒼が不意に最後のひと口をすくって瑞希の方へ差し出して来る。
「じゃ、最後のひと口ね」
「……何のつもり」
「美味しく食べてくださいな」
「……」
瑞希は大人しくそれを食べた。バニラアイスのくせに、甘酸っぱい味がした。
――変なの。
ミルクや砂糖じゃなくてアイスの時に限ってこんな気持ちになるなんて。「甘くない」ところでこっそり味わう甘酸っぱさだからか。
「美味しいね」
「そう。よかった」
瑞希はアイスを飲み込んだ。今日のことを全て押し込むように。
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