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ほっと息をついて駆け寄る彼女。彼女を待っていたのはこの講義棟の中で生活しているとは到底思えない、ふんわりした、「何だか眠そうな」垂れ目の男だった。
彼がこんな出で立ちだから彼女は安心するのだろう。
「おつかれ。わ、何、めちゃくちゃ重そうな荷物」
「そうー、全部レポートの課題。今日1日で全部借りようと思ったのが間違いだったかも」
「図書館は夏休みでも開いてるはずだよね? どうしてまた……」
ふんわりした容姿でも、言うことは冷静だ。そこがまた落差があっていい。
「――ま、いいよ。手伝うよ、家まで運ぶの」
「わぁい、そう言ってくれると思ったの」
「まさかそれで呼んだ? ちょっと都合よすぎない」
「ないない! あーほら、コーヒー奢る!」
「……ったくもう」
彼女は荷物を置いて財布だけ持って翻し、コーヒーを買いに行った。
カップを2つ持って席に戻る。砂糖もミルクもない、ブラックだ。
「はい、どうぞ」
「安いバイト代だ」
ぶつぶつ言いつつも彼は「ありがとう」と言って微笑んでいる。彼女はつい、一緒になって笑っていた。
「――ね、明日暇?」
「明日? あー、夕方からバイト。それまではまあまあ」
「じゃあ。あのさ」
「ん?」
「あ。今日呼び出したわけも言うとね……」
「デートしてほしいの。あたしと」
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