初めての味

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 藤畑 蒼。  風景画のような名前だった。幼い頃から親戚に「いい子だ」と褒められて育った。少々大人しすぎるのが気にされていたが、医学部に進学するまでに成長したから「これで安心」とばかりに家族にも見送られて家を出たはずだった。  蒼の父と瑞希の母が姉弟で、家を出て下宿する先は親戚の家。新鮮味もなく、1人暮らしを堪能することもなく過ごしてきた。  桜井 瑞希。  蒼に対して瑞希の方はお喋りで無邪気な女の子だった。足が速いだとか、お正月によくするかるたが得意だとか、体がよく動くところは褒められていたが、大きくなるにつれて「がさつさ」だとか「面倒くさがり」が心配されてきた。頭が悪いわけではないから蒼と同じ大学に行くくらいの学力はある。  男の子なのに大人しくてよほど女の子らしい蒼と暮らすようになって、家の中では蒼と比べられて正直鬱陶しく思ったこともあった。  それだったのに、「運命」らしきものは酷だ。とても、周りの友人に「腐れ縁が運命になった」などとは言えない。その腐れ縁も例えば幼馴染などではなくて、確かに幼馴染だけれども「本当にある程度血の繋がっている親戚」だったから。
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