これは秘密の味です

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  「クラシックパンケーキセット」というものを頼んだ。クラシックとは言っているが、生クリームがこんもりとお皿の隅で存在感を発揮している。パンケーキの中央にはバターが鎮座していた。 「あー絶対美味しいやつ。はぁー、美味しそうぅ」  ため息交じりにナイフとフォークを持って眺め入る瑞希。蒼が呆れて生クリームをごそっと取って行った。 「じゃ早く食べなよ。美味しいから」 「もう! 香りを噛みしめてるんです! 急かさないで」  お好みで瓶入りのメープルシロップもかけられる。贅沢だと思った。 「蒼、メープルシロップいる?」 「ん? ああ、うん」  瑞希はその返事を聞いて、蒼の取り皿に移動した生クリームにメープルシロップをかけた。 「え! ちょ、ちょっとそれは予想外だ」 「だっているって言ったじゃないの」  そう言い返すと蒼が肩を震わせて痛快に笑い出した。「そうだけど」と、呆然とこぼしている。 「ったく、俺トッピングだけひたすら食べてんじゃんか」 「待って。今切り分けるからね。でもトッピングが好きな男子も珍しいよね。蒼はスイーツ男子だから、分からなくはないんだけど」 「あのね、今これは色々偶然が重なってそうなっちゃてんの。それだけ分かって」 「フフ」  瑞希は軽く笑いながら、バターの染みた上の方と、まだ味の染みていない下の方を同時に切った。4等分してお皿を真ん中に押しやる。 「いいよ。持ってって」 「これどういう配分? 3対1?」 「半分こだよぉ、水臭いなあ」 「……それも予想外だけどな」
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