これは秘密の味です

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      瑞希が家を出るまで半年を切った。まだ家を探すには早いのだが、来年からの生活について話が毎日のようにされるようになった。  蒼は6年の学生生活のため、まだこの家に残って大学に通うことになる。 「ちょっと変な感じです。瑞希が出て行って、俺が残るって」 「いいのよ。だって蒼くんはお部屋綺麗にしてくれてるし、お手伝いもしてくれるし……いて邪魔なんてことはないんだから。勝手にいい子に育ってくれた双子のきょうだいができた気分」 「まー、まるであたしが面倒でお邪魔虫みたいに」  ふてくされる瑞希の向かい側で蒼が困ったように微笑んだ。 「違うよ。心配されてるんだよ」 「ほんとよ。心配よ。瑞希はずっとくっついてないと何しでかすか分からない子だったんだから。部屋も汚いし、お手伝いなんてしないし」 「それは蒼がちゃっちゃとやっちゃうから、あたしが手出しする余地がないだけ! 1人になればちゃんとやります」 「本当に?」  瑞希はむくれたまま母を、そして蒼を睨んだ。蒼は肩をすくめて「ほらね」と言いたげにしている。何が「ほらね」なのか分からなくて瑞希はテーブルの下でこっそり、足の甲を寄せて蒼の足をちょんと蹴った。  
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