忘れかけていたけれど、苦いものです

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 3月の半ばの週末。いよいよ家族と蒼の4人で、草津温泉に出発した。瑞希の父親が車を運転して行くことになった。  3,4時間はかかるだろう。後部座席に隣同士になった瑞希と蒼だったが、蒼が酔いやすい質なのであまり酔わせるようなことはできなくて、瑞希も寝てしまった。  ゆさゆさ肩を揺すられてはっと気づいた瑞希。上から蒼が覗き込んでいる。 「はっなに!?」 「なに、驚きすぎ。――着いたってよ」 「は……っ、ああ、そっか……わあ」  瑞希たちを迎えるのは白い雪景色だった。今もしとしとと降っている。  先に蒼が降りて傘を差し、瑞希の方に回って来た。 「傘ある、あたし」 「……まあいいじゃん」 「……」  瑞希は眉をひそめて蒼を見つめた。蒼はフフ、と含み笑いをして目を伏せるのだった。  草津温泉の成分は硫黄が特徴的だ。だから温泉街に降り立つと硫黄の独特の匂いが立ち込めているのが分かった。
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