最後のひと口、難しい匙加減

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  「冬に食べるアイスってのがこれまた美味しいんだよね……」  冬に食べるアイスクリームというのが、夏とは違う意味で格別だとメディアでも売り出すことがある。  瑞希(みずき)はストーブの点いたリビングで敢えて食べる、季節外れのアイスクリームを堪能していた。  子供の頃は「お腹を壊す」と言い聞かせられて冬場には食べさせてもらえなかったもの。  そんなの嘘だと思う。冬場に食べてもそう壊しはしない丈夫な体になった。  さすがに溶け始めるまで時間がかかった。熱いコーヒーの隣で早く溶けないかとにらめっこをして待っていた。  そして、ついにスプーンを入れられるほどになった。  溶け始めれば早い。ちょうどいい固さのアイスをさくっとすくって口に入れた。降り積もってまだ誰にも踏まれていない雪に手を突っこむ時のようなわくわく。  ストロベリーの甘酸っぱい香りが鼻を抜ける。そしてミックスされたミルクは口をふわりと包んでほぐす。  笑顔になった。口の中がひやっと冷たくなるのは仕方ない。大事に味わった。  しかしスプーンを入れる手は止まらない。溶け出したら体温などであっという間にどろどろしてしまう。瑞希の好きな固さ加減というのは、どろどろになってしまうぎりぎりのところにあった。長い時間をかけられないのがむしろスリリングで面白い。  ひと口ごとに「ふぅ」と満足げに息をつく。
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