最後のひと口、難しい匙加減

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「――は?」 「こいつにひと口垂らしたら絶対美味いと思って」  そう言って蒼が手提げから出したのは、コンビニのカップ入りブラックコーヒーだった。  瑞希は呆れて笑い出した。 「……分かんなかったじゃないの、変に赤くなってるから違うことかと思った」 「何と勘違いしたの――」 「もういい! それこそもういい!」  今度こそ真っ赤になってしまった気がする彼女だった。ストロベリーが瞬間的に頬に移ったように。 「もう。そういうのはさっさと出して提案しなきゃ」 「でもさ。あのひと口を俺がもらったら、君の最後のひと口はなくなるんだよ。その前のひと口が最後になったかもなんだ」 「……ってことは、アイスを入れたコーヒーをあんた1人で飲もうってつもりだったの」 「これは俺が買ってきたコーヒーだし」 「呆れた! 食べて正解」 「だ――だから躊躇したじゃんか、一応」  蒼はいつまで食い下がってくるのだろうか。これではさらに後味が悪い。 「――じゃ、今度アイス食べてる時にそういうことがあったら一応待ってあげる。さっさと頼まないと食べるからね」  瑞希は気持ち強めに言ってやった。今度こそ最後のひと口まで気持ちよく味わえるようにと願って。  蒼は殊勝にも「はーい」と返事をして微笑んで立ち去った。  半年くらいしか誕生日は違わないというのに随分甘え上手だ。1人キッチンに残された瑞希はため息をついた。アイスなど簡単に溶かせるため息を。 「……そもそもこれストロベリーミルクだし。合う?」  数分してやっと平静を取り戻した彼女だった。
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