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「これ、溶けないろうそくなの」
彼女がどこからか、すっとろうそくを取り出した。
「溶けない? ろうそくなのに?」
「そう、火を点けてみて」
そう言われて彼女に手渡されたマッチ箱を使って火を点ける。
しゅぼっと音を立ててマッチが燃え上がった。ソッとろうそくに火を移す。
「あ、燃えた……って溶けてるじゃない」
私が呆れながら言うと、彼女は笑ってその場で一回転した。
「あなたのは溶けるろうそくだったのね、また失敗しちゃった」
クスクスと無邪気に微笑む彼女に、背筋が粟立った。
「ねえ……」
そして名前を呼ぼうとして、彼女の名前を知らないことに気がつく。
……そもそもここはどこだ?
「あーあ、見つかんないなあ。溶けないろうそく」
「ねえ、溶けないろうそくって何のこと……」
急に気分が悪くなって、その場にしゃがみこむ。
「ありゃ、あなたのろうそく全部溶けそうだね。もったいないから残りは私がもらってあげる」
そう言って彼女がろうそくの火を指でじゅっと押し消した。
「え」
ぶつり
世界が、途切、れ、
「あの子もだめだった」
そう言いながら少女は歪な形をしたろうそくに先程の残りのろうそくを、液体にして継ぎ足す。
「有限じゃダメ。幾ら足しても満たされない。無限が、溶けないろうそくが欲しいのに」
そして少し考え込む。
「たくさんのろうそくを集めれば完璧じゃなくても、それに近いものにはなるかも……?」
そう呟いた少女は、良いことを思い付いたというように手をポンと叩いた。
踊るように歩き出した足元で上履きのゴムが叫びをあげる。
「……ねえ、これ溶けないろうそくなの」
少女の声と、不思議がるような声が空間に響いては消えて、次の瞬間にはまた新しい声が響いて。
消えた。
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