前編

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全然大したことじゃないのに、一人だったら笑わないようなことなのに、蒼といると笑ってしまうのはなぜなんだろう。 「じゃあ行くか」 ひとしきり笑って、蒼が歩き出す。家とは反対の方向だった。 なんだかんだ行ってくれるんだよな。 「なにニヤニヤしてんだ、キモいぞ」 「うるせぇ」 寒いからコンビニで肉まんでも買って行こうか。 たかが三十分程度の電車の旅なのに、妙にわくわくした。 「その前に肉まん買うからコンビニ行こ」 「サンキュ」 「奢らないからな」 「えっ」 不満そうな蒼は無視して、俺は駆け出した。  雨風に(さら)されてボロボロの時刻表を見ると、次に電車は二十分も後だった。運悪く前の電車が行ったばかりだったらしい。ちなみに前の電車は三十分前だったので、約一時間に一本。 田舎ならではの便の悪さに笑ってしまった。 野ざらしのベンチで蒼と二人、まだ湯気の立つ肉まんを頬張った。 「んで、なんで海なんだよ?」 「なんか遠出って感じだから?」 もごもご食べながらと聞く蒼に、俺ももごもごと返した。 質問に疑問形で返すのも我ながらどうかと思うが、なんで海なのかは正直俺自身も分からなかった。 「思った以上にしょうもないな」 「そんなもんだって」 なんで遠出がしたかったのか聞かない蒼はいいやつだ。なんとなく察して、聞かないでおいてくれてるのかも知れない。     
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