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「そういえば見て」
「ん?」
蒼は俺に食べかけの肉まんを預けて、自分のコートのボタンを外した。
あらわになった学ランの連なったボタンがひとつ、見当たらない。上から二番目。そのボタンは好きな人に渡すと結ばれるとか結ばれないとか。
「第二ボタンないじゃん! 抜け駆けは許さねぇぞ」
「いや」
「誰? 後輩?」
しかもわざわざ見せるってことはもらってくれたってことだろ。
詰め寄って聞く俺に、蒼は困ったように笑う。
「強いて言うなら……経年劣化?」
「ケイネンレッカ?」
一瞬漢字に変換できなくて、カタコトに聞き返した。
蒼はコートのポケットを漁っている。しばらくすると見覚えのある金色のボタンが出てくる。
「取れた」
「まぎらわしいことすんな!」
俺の絶叫はホームに滑り込んできた電車にかき消された。そっちが勝手に勘違いしたのだと、蒼は腹を抱えて笑っている。
俺はドアの脇のボタンを押して、電車に乗り込んだ。都会の電車にはないのだという、北国の田舎ならではのボタンだ。
まだ笑っている蒼に意地悪く微笑んで、そのまま閉ボタンを押した。
「あっ、てめ! ふざけんな」
すっと笑いを引っ込めて、慌てて開ボタンを押す蒼。
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