前編

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「そういえば見て」 「ん?」 蒼は俺に食べかけの肉まんを預けて、自分のコートのボタンを外した。 あらわになった学ランの(つら)なったボタンがひとつ、見当たらない。上から二番目。そのボタンは好きな人に渡すと結ばれるとか結ばれないとか。 「第二ボタンないじゃん! 抜け駆けは許さねぇぞ」 「いや」 「誰? 後輩?」 しかもわざわざ見せるってことはもらってくれたってことだろ。 詰め寄って聞く俺に、蒼は困ったように笑う。 「強いて言うなら……経年劣化?」 「ケイネンレッカ?」 一瞬漢字に変換できなくて、カタコトに聞き返した。 蒼はコートのポケットを(あさ)っている。しばらくすると見覚えのある金色のボタンが出てくる。 「取れた」 「まぎらわしいことすんな!」 俺の絶叫はホームに滑り込んできた電車にかき消された。そっちが勝手に勘違いしたのだと、蒼は腹を抱えて笑っている。 俺はドアの脇のボタンを押して、電車に乗り込んだ。都会の電車にはないのだという、北国の田舎ならではのボタンだ。 まだ笑っている蒼に意地悪く微笑んで、そのまま閉ボタンを押した。 「あっ、てめ! ふざけんな」 すっと笑いを引っ込めて、慌てて開ボタンを押す蒼。     
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