前編

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前編

 「どうした?」 校門の前で立ち止まった俺に気付いて、(そう)が問う。 「なんでもねぇよ」 口ではそう答えるものの、校門を越えられなかった。 三年前、強張るほどの緊張の中でまたいだこの線は、今日限りもうまたぐことはない。少なくとも、生徒としては。 そう考えると、柄にもなく感慨(かんがい)深かった。 「お、なんだ? しんみりしちゃったか?」 「なんでもねぇって」 そういうお前だって、目の端は真っ赤だぞ。 言い返してやろうかと迷って、言わないでおいた。多分蒼自身も分かっている。 代わりにこう言った。 「海行こうぜ」 ぜ、のタイミングで校門を飛び越える。 「は?」 「海。電車なら三十分くらいだろ」 「いや、今日三月一日よ? 暦の上ですらまだ冬だよ?」 こいつ大丈夫かと言わんばかりの蒼はマフラーを巻いている。 やっと(つぼみ)が色付き始めた梅の花は、ずっと海の方まで吹く冷たい風に揺れていた。 「知ってるけどさ」 「お前、今卒業したばっかりだけど、やり直してきたらどうだ?」 「やだよ、やっと高校生じゃなくなったんだから」 蒼がゲラゲラと笑う。つられて俺も笑い声をあげた。     
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