第6話 文化祭

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※此処から初めての文化祭編、突入です! ムルチャトフ王国は年に7度祭りを開催する。 また、この学園では第5学年(15歳)から第8学年(17歳)までの間に、二大行事として毎年文化祭と演武大会が行っている。 開催時期を一覧にするとこのようになる。 ①建国祭(3月(マルトス)第5週目) *入学式(4月(アプリル)第1週目) *実力テスト(抜き打ち)(4月(アプリル)第1週目) ②春花祭(5月(メヴィマ)第1週目) *文化祭(5月(メヴィマ)第5週目〜6月(ユニアン)第1週目) ③鎮魂祭(6月(ユニアン)第4週目) *中間テスト(7月(リジュイ)第1週目) ④再興祭(7月(リジュイ)第3週目) *長期休暇(7月(リジュイ)第3週目〜8月(ガウティス)第3週目) ⑤秋花祭(9月(セブルタン)第1週目) *演武大会(9月(セブルタン)第3週目〜9月(セブルタン)第4週目) ⑥収穫祭(10月(オトバール)第2週目) ⑦感謝祭(12月(ディルッサ)第3週目) *長期休暇(12月(ディルッサ)第3週目〜1月(ジャヴィン)第3週目) *期末テスト(2月(ラヴェリフ)第4週目) ※年末年始はどこもかしこも忙しい為、祭はやらない。 学園での二大行事 文化祭(5月29日(メヴィマ・ヴァタネーナフス)6月2日(ユニアン・ドーウェス)30日(デルトーハス)1日(ユアンス)が一般公開日)) 演武大会(9月16日(セブルタン・セゼーティズ)9月21日(セブルタン・ヴァタントゥエス)(全て一般公開)) *演武大会は、演舞部門(前半の3日間)と武闘部門(後半の3日間)に分かれており、正式名称は演舞・武闘大会。普段は長い為演武大会と略される。 国家予算の編成が如何様になっているか、些か心配になるかもしれないが、祭は短くて3日、長くても7日程度で終わる。 ムルチャトフ王国では、主に観光業・農業・水産業・畜産業・魔法関連業の5分野で大幅な収益を得ている為、祭の開催費用の捻出は痛くも痒くも無いのだ。 そもそも、祭によって開催費用以上の収益が得られるから、開催して損する所か寧ろ得するんだよ。 イメージしやすい所で行くなら、前世でいうバレンタインデーやクリスマスなどのイベントがあった時並みの経済効果がある、って感じか? まあ、10歳未満の子供は自衛の術があっても体格差でトラブルの対処がしづらいだろうって事で、祭の期間中は保護者無しでの外出の自粛を義務付けられているし、学生のうちは勉強優先で長期休暇の時以外は祭へ参加する事が禁止されている。 この国では15歳で成人だから、それ以降は自由に遊び回れるし、酒もタバコも解禁される。その代わり、全て自己責任でトラブルの対処も全部自分で行わなければならなくなる。 つまり、身の安全の保証と引き換えに自由を得られるって訳だ。 学生のうちはどのみち長期休暇以外の外出が原則認められてないし、家族が危篤・死亡、領地で災害・飢饉発生といった緊急事態の時だけしか外出許可が得られないから、祭自体にあまり縁が無い。 俺の場合、養子として引き取られるまで色々あって、世間との関わりが全くなかったから、養家で家庭教師に習うまで祭の存在自体を知らなかった。 …前世の頃からイベントとか全く興味がなかったからな。反対に翠はそういうのが大好きで、そのくせ方向音痴で鈍臭いから危なっかしくて、1人じゃ心配だからと翠に付き合ってた。 だから、そういうのに行った事が無い訳ではないし、付き添いでならもう何回も行ってる。 翠が居れば、どんなに退屈な事でも何でも無い事でも幸せだと思えたから、行くのは苦じゃなかった。 …で、何でこんなに長々と祭について語っているかというと、明日が文化祭当日だからだ。 文化祭では、カフェや屋台などの飲食店、縁日やお化け屋敷などの娯楽場、展示やプラネタリウムなどの手抜き系、壇上で劇やダンスをする演し物などがあり、クラス毎に違っている。 この辺は前世と一緒だろうし、壇上ではクラス毎ではなく個別に組まれたグループによって、演奏や歌唱などが行われ、文化系の部活の発表もあるらしい。うん、ここも一緒だな。 で、文化祭最終日の夜には後夜祭の代わりに夜会、分かりやすく言うと舞踏会が開かれるんだ。 プロのオーケストラの演奏に合わせて、タキシードやドレスに身を包んだ男女が踊る。 噂では、ダンスの最中に何やらサプライズがあるらしいが… 上級生は初参加組の楽しみの為にと、それ以上は何も語らない。 先輩方もきっとそうされたんだろう。 これは一種の伝統だな。 如何にも乙女ゲー転生しましたよ、って感じがするだろ? 前世の時代の日本じゃ、舞踏会なんてお貴族様の催しでお目にかかることは滅多にない、どころか皆無だ。 元々の人嫌いもあって、お貴族様になった今でも社交界にあまり顔を出さないから、夜会の参加経験もあまり無いんだ。 はぁ…一応家庭教師にダンスを習った時、最後の授業で『もう教える事は何もない。』と言われたからな。確か、こういう場面でのこのセリフは、合格点に達したから他に教える事は何もないよ、って言う肯定的な意味を持っていた筈だ。 だから、ダンス自体には心配はないんだが…社交面がなぁ。 あーあ、夜会バッくれてぇなぁ…でも養家に恥をかかせる訳にもいかないし、ただでさえ無理を言って夜会等の誘いを殆ど断って貰ってるんだ。 身分的にどうしても断れないものだけ参加しているが、今後の事を考えると男爵家や子爵家といった下位の貴族とも人脈を作っておかなければならないだろうし… いや、でも、しかし…なぁ? こんな俺と繋がりを持とうとする奴なんているか? 友人2人とヒロイン以外、殆ど交流が無いぞ? …はぁ。とりあえず、養家と王太子殿下に不利益を齎さない家の奴と話すか。 どのみちダンスのパートナーが要るんだ。夜会では必ず最低でも1人とダンスを踊らなければならないから。 前聞いた感じだと、友人2人は既に見つけているようだし、もう時間もないから… とりあえずファーストダンスの時だけ壁際に潜んで、セカンドからは手の空いた令嬢に手当たり次第に声を掛けていくしか無いな。 …あ、勿論悪い噂を聞く人とか、如何にもヤバそうな感じの人は遠慮しますから。 舞踏会には身分を問わず平民も参加して良い事になっているから、貴族が誰も捕まらなかったら最悪平民とでもいいか。 …いや、身分差別とかじゃなく、単純にトラブルとかが発生した時に両者間の身分差が大きいと、どうしても身分の低い方が不利になるからなぁ。 所謂、不敬罪って奴に該当する可能性があるから、平民や下級貴族達は皆挙って同程度もしくはその前後の身分の者と連む。 これは中級・上級・最上級貴族、王族の場合でも同じ事だ。 身分が上だろうと下だろうと、普通は誰かと揉めたくないわけで…身の程を弁えた行動をする事は一種のマナーでもあるんだ。 そんな理由で、手当たり次第に声を掛けるとは言ったものの、やはりある程度は吟味してから、という事になる。 …非常に面倒だが、仕方ない。 これがこの国に生まれた者の義務だ。 えっと、相手については当日何とかするとして、服は如何しようかな? 普通は色やデザイン等をパートナーに合わせたものにするんだが、生憎未来の事は分からないから、合わせる相手が居ないというのが現状だ。 確か、青には沈静化の効果があるって聞くし、それを取り入れた方が相手に冷静になって貰えていいかもしれないな… となると、さり気なく取り入れた方がいいな。 ド派手に原色オンリーとか、何処のマジシャンだよって感じがするし…目立ちそうだし、着ていて全く落ち着かなさそうだ。 んー、青系統のタキシード…か。 あるにはあるが、丈が足りてるか心配だな。 今、俺成長期なんだよ…今年に入ってからというもの、既に2センチ伸びてるし…今は5月(メヴィマ)だぞ?5ヶ月で2センチって、伸びんの早くね? 1年で何センチ伸びるんだよ…まあ、背が高くて損するって事もないから、別に構わないんだがな。 丈について心配しながらクローゼットを開く。 俺が持ち込んでいるタキシードは2着だけ。 『ダークグレーを基調とし、オフホワイトのストライプが入ったもの』と『ほんのりと青みがかった黒色オンリーで、光の加減によって滑らかで伸びやかな深い青色に見えるもの』だ。 普段は目立ず周囲に紛れ込む事を前提に考えて、前者をよく使っているんだが… 後者は特別な日しか着ない、所謂とっておきの服という奴で、今年はまだ一度しか袖を通していない。 今年の初め辺りの事だから、身長が伸びた今この丈で着られるか少々心配なんだ。 …ただ、誰かを上手く口説いてダンスに誘わないといけないから、今回は特例って事で着てみようと思う。 …という訳で、試しに後者のを着てみたが。 んー、やっぱり伸びた分だけ丈が短くなってるな… 袖と裾を直すだけなら、不器用な奴でも魔力操作が出来るなら魔法で直せる。 俺は裁縫だけは昔から苦手で、それ以外は完璧なのに裁縫のせいで家庭科は5段階で4になっていたんだよ。 …まあ、今は魔法があるから、俺でも数分で丈を直せたが。 直した後、確認の為にもう一度着てみたが、丈以外は全然問題なかった。 幾ら鍛えてもまるで筋肉がつかない体質だからなぁ…戦闘力が上がっても体型的変化が殆どないから、見た目にはただのモヤシにしか見えないだろうし。 今回はその体質のおかげで、丈を直すだけで済んだんだから、結果オーライだ。 はぁ…それよりも嫌なのが、クラスの出し物で劇をやる羽目になった事だ。 演目はシンデレラ。…え、異世界なのに?とは思ったものの、どうやらこれも6代目が世に出したものらしく、ペンネームを使ってはいたものの、国民にはすぐにバレた。批判でもされるかと思いきや、寧ろ飛ぶように売れてベストセラー化したらしい。 …もう俺、ノーコメントで行くわ。つっこんだら負けだ、これは。 …で、まあ、モブ顔の俺は当然モブ担当。配役は舞踏会のシーンでシンデレラと王子が踊ってる時に後ろで踊ってるモブ貴族。 …いや、正確には貴族令嬢(・・)。 まさか、女装する羽目になるとは思っておらず、女役のダンスの振り付けを覚えたり、より女性らしく見えるように所作とかも直されて… 当日はメイク・ウィッグ・コルセット・ハイヒールという四重苦に耐えながら、羞恥心を心の奥底に追いやって、ドレスを纏い、可憐な一輪の花と化す。 …はぁ。女体化魔法まで掛けてもらって、俺の面影がなくなるようなメイクとウィッグで、別人を演じる。 幻惑属性を持たない俺は、自力で女体化魔法を使う事が出来ないから、幻惑属性を持ってるクラスメイトに毎回お願いしてる。 メイクも着付けも全てクラスメイト達にお任せ。 俺はただ当日、ひとりのモブ女としてダンスを踊るだけ。 …申し訳なさで一杯になるが、俺は俺の出来る範囲で努力したから、それで許してほしいなぁ。 あー、全く。憂鬱過ぎる… こんなの絶対、黒歴史確定じゃねぇか。 でも、俺がバッくれて他の奴に迷惑をかける事になるのは嫌だからな… こうなったら、いっそ徹底的にモブ女になりきってやる! 恨むなら、自分を…クラスでの話し合いを話半分に聞いて、適当に頷いていた愚か者を恨め! 一般公開日なんて知るかぁ!見られたところで減るもんじゃねーし! 劇を披露するのは、文化祭1日目の午後の部と2日目の午前の部の計2回だけ。 それが終われば、もう一生ドレスなんて着ねーんだ、腹括って挑めばすぐ済むさ。 それ以外の時間は自由時間だし、1日目の朝に衣装とかの最終チェックをして、2日目の朝にも本番前に衣装とかに不備がないか確認したりするって話だから、そこに参加する事を忘れなければ、あとは遊び回ってても問題なし何だとか。 はぁ…よし、頑張るか。
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