第4話 事実①

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自暴自棄が続き、悪女やその子供達の金づるとして生きる以外に何もしなかったから。 金策に走って、それでも足りなくて、国の金にまで手を付け、脱税まで行った。 重税を課していなかったのは、良心の呵責からで、それ以外の悪事は何でもやっていた。 大凡…彼は死にたかったんだろう。 最愛の者も無くなり、その忘れ形見は放任しなければ守れない。好きでもない…嫌悪すら湧く者にばかり金を使われ、忘れ形見には一銭も使えない。不正でもしなければ、金を確保できず、こんな状況で人を頼るのは流石に不味い。かと言って、今罪が明るみに出れば忘れ形見すら国家反逆罪の餌食になる。そんな事も知らず、のうのうと生きている悪女ら…更には忘れ形見にすら嫌悪が湧き出す。 そんな調子でどんどん悪い方へと進むうちに、いっそのこと悪事の限りを尽くして、一家諸共巻き込んで破滅してやるとでも思ったんだろうね。 まあ、最後の最後で私が忘れ形見を養子として引き取ってくれる上に…予想外とはいえ恨まれて然るべき忘れ形見に不正を告発され、それでも父として会話してくれた忘れ形見。 此処まで来ると、この世に対する思い残しもなく、断頭台に上がれるってものだろうよ。 …あんな穏やかな顔を見たのは何年振りかって話だよ。あんな顔、学生時代以降殆ど見た事がなかったから。 唯一見れたのは、君の妊娠の知らせを聞いた時かな。偶々、その時一緒に居たからね。 ちなみに、その顔で嬉し泣きしてたよ。いい歳した大人が泣くなんて見っともないと思うだろうけど、多分それぐらい嬉しかったんだと思うよ。 まあ…君の出産後は生まれた事を喜びたいのに喜べない、どうしたらいい…なんて複雑そうな顔をしてたから、君が生まれた事を恨んでは無かった筈だ。 最愛の者の命と引き換えにとはいえ、君は最愛の者によく似ているから。 彼女は曾祖父母の特徴を継いでいたからね。それが君に遺伝したから、君は父親にはあまり似ていないけど、母親によく似た可愛らしい子になった訳で…
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