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「ところで。」真剣味を帯びた口調の彼女。「何か話したいことがありそうですね。」「えっ?」階段を一段踏み外したような気になる善紀。
「一人で抱えてるっていう顔してます。」こちらの表情を伺いながら言う浅野。「いや、そんなことないさ。俺はただ、ただ」駄目だ、読まれてる。目をおぼつかせる善紀。
洞察力の鋭さにかけてはピカイチの彼女。仕草や表情などの変化に気づきやすいだけでなく、気持ちを掴み取る能力にも長けていた。大学で初めて顔を合わせた時から変わっていない。やはりそうだったか。
善紀の頭の中で2つの思いがぶつかり、対立し合っていた、現状を打ち明けるということは、世間から生き遅れた駄目な人間であるということを教えるようなものだ。その一方で、誰かに今の自分を分かってもらいたい、受け入れてもらいたいという強い想いを抱いていた。
「お話しません?一緒に。」「えっ?あ、いやその待って。」立ち止まる善紀。やっぱり..駄目な人間だって言われたらどうしよう?それまでだ。けど..うん。分かってほしい思いだってあるんだから。手のひらを見つめる彼。険しい表情の奥に見える想いの一つこそ、まさに今の自分が欲していたことであった。どうするべきだろう。
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